×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



ピカピカの1年生がやや緊張した面持ちで体育館へ吸い込まれていく。その様子を端の方で微笑ましく見守る私も、遂に最高学年になってしまったのである。春ははじまりの季節、なんて言うけど、正直高校3年生になった今、何かがはじまる予感なんてものは微塵も感じない。体育館の重たい扉が閉まったのを確認して大きく伸びをすれば、隣に立っていた松川が吹き出した。

「なによ」

「いや、おばさんかよ」

「松川には言われたくない」

「どういう意味だよ」

「遂にその似合わない制服との付き合いもあと1ね・・いててて!!」

無駄にデカい手で頭を鷲掴みにしてきた松川にごめんごめんと繰り返す。いくら扉を閉めたとはいえ、体育館の中は式の真っ最中。騒いでるのがバレれば大目玉をくらうに違いないので大人しくすることに。

「もー、なんでよりによってバレー部が手伝いに当たっちゃうかな」

「矢巾と同じこと言うなって」

「矢巾だけじゃないって、ぼやいてるのは」

「ま、式が終わるまでゆっくりしてようぜ」

よりによって私たちが3年に上がる今年、手伝いの番になってしまった。そのせいで少しだけ物悲しい気分だ。結局1年の頃からマネ業でいっぱいいっぱい。彼氏つくるぞー!なんて意気込んでた2年前の春を思い出し失笑してしまった。

「なんか、思い出すね、うちらの入学式」

「そういうのやめろよな」

「なんで?」

「実感するだろ、なんか、いろいろと」

「もう、全部の行事に"最後の"ってついちゃうもんね」

悲しいのは松川も一緒みたいだ。こうやって松川とバカみたいに騒げるのも、今年で最後なんだと思うと正直悲しい。松川とはバレー部の中でもかなり仲が良い方で、クラスも2年間一緒だった。

「・・・お前、1年の頃俺のこと先輩とか言ってきたよな」

「いや、あれはどう見ても間違えるよ」

1年の教室に何で先輩が混ざってるんだろうと、本気で思ったのを思い出した。だけどそれがキッカケでこうして松川と友達になったんだから、結果オーライと受け止めてほしい。

「すっかりこの制服もくたくただよな」

「それね、すっごい思った。何あの子たちの制服。パリッパリ」

今現在、体育館で式に出席してる1年生たちの制服は私たちが着ているのとまるで別物。ブレザーの肩部分はしっかりしてるし、何より白い色が綺麗だ。入学する前はオシャレで可愛い制服だなとも思ってたけど、今となっては汚れやすくて面倒くさい。そんなことをぼんやり思いながら自分の制服に目線を落とすと、少し取れかけのボタンが目に入った。
そういえば、松川の取れたボタンとか直してあげたな。それも今年が最後かと思うと、やっぱり悲しい。

しばしの沈黙のあと、「そういえば」と何か思い出したように口を開いた松川

「ついにみょうじには彼氏できなかったな」

「は!?いや、まだ私の高校生活終わってませんが」

「え、まだ諦めてねーんだ」

「今度の練習メニュー、松川だけ2倍にしていい?」

「ばっ、それ卑怯だぞ」

マネージャーに暴言吐いておいて何を言う。

「ラスト1年、絶対彼氏つくる」

「なんでそんな彼氏欲しいの」

「制服デートしたいし」

「は?それだけ?」

「学生の間でしか経験できないトキメキとかあんじゃん!」

私の言ってることを理解してるのかしてないのか、「へぇ」と短い返事で受け応える松川に腹が立つ。ちょっと自分がモテるからって・・・。

「どーせ、松川には分かんないですよ」

「いや、分かるよ」

「え?」

「俺もさ、今年は付き合いたいなとか思うんだよね」

意外すぎる松川の告白に驚いた。今まで告白されても断り続けてた松川が、まさかのだ。「そうなの!?」とも「誰か好きな子いるの!?」とも言えない私は、間抜けにも口をパクパクさせるしかなくて。松川はというと少々の照れがあるのか、ポケットにいれてた手を自分の首の後ろに持っていき「あー」と唸ってる。そしてチラリと私の方を見て笑った。

「俺もさ、学生のうちに出来ることはしたいよ」

「で、でしょ?」

やっと声が出た、と安堵したのも束の間。自分の首にやっていた松川の大きな手が、ポンと私の頭を包み込むから、驚いてまた言葉を失った。

「できれば、お前と」

「・・・・・・・へ?」

松川の言ってることを理解するのに何分かかったのか。いや、現実にはきっと数十秒。でも、それくらい長く感じた。私の頭に置かれてる松川の手が熱い気がする。え、嘘、え?

「・・・なんか言えよ」

「えっ、えっ・・」

「ほんとさ、鈍いのな」

呆れたように溜息をついた割には、声がどこか楽しそうで。今まで見れてなかった松川の顔を盗み見てみれば、すごく。

「っ・・・」

そんな、愛おしそうな顔で私を見ないでよ。と心のなかで叫んでしまった。軽くパニックを起こす私なんて知ったこっちゃない、といった感じにぐっと腰を折り目線を合わせてくる松川。

「俺じゃ、ダメ?」

「ず、狡っ・・そんな・・・」

「・・・ま、考えといて」

私の髪の毛をかき混ぜ、「じゃぁ俺、裏方の様子見に行ってくるわ」なんてまさかの言い逃げ。そして、余裕綽々かと思ってた松川の耳が、去り際真っ赤になってたのを見てドクンと鼓動が高鳴った。

春ははじまりの季節、確かにそうなのかもしれない

---------
松川一静の場合
naosuke様