「──はあ、」


 千夏は再び机に伏した。世界にあるあらゆる負のものが一気に肩に乗っかった。ような気がした。


「そうです! 彼女は僕の彼女です! だもんねー。ああ見えてなかなか情熱的っていうかなんていうか」

「聞こえない私には何も聞こえない聞いていない」



 その悪夢もなかったものにする為に起こした行動は、残念なことに散々な形で失敗に終わった。
 昨日のことだ。
 一方的な別れを口にし、そそくさと退散しようとしたら乱暴に腕を掴まれた。

 逆上か!?
 ならばこちらにも二・三手は考えはある。

 過ちといえど夏をともに過ごしてきた情はあるが──致し方あるまい。


 すぅ、と大きく吸い込んで、声を大にして叫ぼうとしたその刹那。

 会わないようにと細心の注意を払っていた人物たちに出くわしてしまったのである。ついていない、どころではなかった。



「けど何で、あそこに来たの、睦美たち」


 じとり、と恨めしげに睨みつければ、にししと友人──睦美は笑って見せた。



「駿くんがね、どうしても行きたいって急に言い出したのよねえ」

「しゅ、駿くんが!?」

「そう。千夏が来るまで本屋で時間潰ししてたんだけど、少し遊びに行こうかって話になって」

「……何も、神社なんて選ばなくてもよかったのに」

「趣味らしいよ」

「趣味?」

「神社・仏像巡り」

「…………」



 そんな趣味があったなんて知らなかった。
 新たな情報に喜んでいいのか悲しんだほうがいいのか。微妙な心境である。

 どちらにせよ、データ不足だったのだった。


 


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