『で、ここからが本題なんだけれど』

『うん』



 あれだけ話してこれからか。というツッコミは心の中でのみ入れた。

 それにしても暑かった。冷風器具が備え付けられている節もなく、店内は強烈な湿度に見回れている。

 べたり、と汗ばむ頬にくっつく髪を払って千夏はちらりと対面に座る来栖を見ると、今までのイメージを覆すなまめかしい表情が飛び込んできた。

 ぎくり、としてストローから口を離してまじまじと凝視した。けれどもそれは一瞬で、普段の彼の、頼りなさげなそれに変わっていた。



(……あれ?)


 小首を傾げるその隙に、ぱっと手を取られて握りしめられる。千夏はぎょ、とした。



『な、なに』

『今話した通りだよ』

『な、なにが』

『だから、僕とお付き合いしてほしいんだ』



 今にして思う。
 ここまでに分岐点は幾つかあったが、確定的な分かれ道はおそらくここだった。

 この時別の道を選んでいたのならば?

 だが幾ら過ぎた後で考えても、すべては後の祭りだった。






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