「来栖ったら、まだ訊いていない?」
「ああ゛?」
「来栖が今の《来栖》──《人ならざる者、来るべき者たちを束ねる栖の長》っていうのは変わらない。だって、来栖が一番濃いからね、血」
「……」
「でもだからって、より強い血を残せるなんて保証はないでしょ?」
「その為の道具だ」
来栖はじろりと千夏を見下ろした。
目が合った、瞬間、警鐘が鳴る。
(道具?……それって、私のこと?)
千夏は思い出していた。
この瞳を、千夏は知っている。
──孕ませてやる。
そう言って、甘く恐ろしく、そして、とても切なげな瞳で見つめられたことを。
「違うよ」きっぱりと駿は言い切った。
「朝比奈は誰のものでもない。……来栖のものでもない」
「なんだと?」来栖は片目をぴくりと動かした。
引っ込んでいた不機嫌そうな顔が滲み始める。
だが、駿は臆することなく、むしろ強気に話を続けた。
「先代はじれているっぽいけど、話はまだまとまっていないしね。乱闘になっちゃって」
「……神楽坂か」
「さて、ね。どっちにしろあの調子じゃ当分はこのまま。それに、朝比奈自身の気持ちが噛み合わないと、血の継承はなされない」
「…………」
「来栖の八つ当たりなんかで、大事な朝比奈家のお嬢様を傷つけさせるわけにはいかないんで、槍として」
「お前は俺の槍だろう」
「そうだよ。でも彼女の槍でもある」
千夏には笑顔を、来栖には強い眼光を。
駿は二人を交互に見、それから千夏を来栖からひっぺがした。
「朝比奈……彼女が誰を選んで、誰の血を残すのか。それまでは、たとえ来栖、《来るべき者たちを束ねる栖の長》だったとしても、朝比奈を傷つけさせるわけにはいかないんだ」
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