「ここまでで何かわからないことある?」


 駿の言ってることは理解出来ている。
 ただ、まだ柔軟に受け止められていないだけであって、意味はわかっていると思う──千夏は「大丈夫」だと答えた。



「じゃあ、次、知りたいことある?」

「えっと、じゃあ、舞鎮師って何?」

「それは俺が教えてやる」



 突然、二人だけの室内に、第三者の声が響いて心臓がどきりと跳ねた。
 千夏は慌てて声のした方向へ顔を向ける。
 玄関扉に寄りかかり、やたらと機嫌悪そうにしている男がひとり──来栖刀護だ。



「……槍の分際で何をしてる」

「来栖、お前いつからそこに? ていうかノックぐらいしろよな」



 つかつかと主の許可なく勝手に入り込み、来栖は強引に千夏の腕を掴んだ。

 ぐいっと乱暴に引っ張られて、千夏はバランスを崩し、来栖の胸の中へと倒れ込む。



「ちょっと! 何すんの!?」

「お前は黙れ、朝比奈家の娘」

「勝手に入ってくるわ乱暴するわで、もー、来栖さ、」

「犬、お前は失せろ」

「……そういうわけにもいかないんだけど」



 駿は微笑みながら立ち上がる。だが、目の奥は笑ってはいない。

 ぞくり、とした。
 いつもの柔らかな雰囲気からかけ離れ、今の駿は鋭く研がれた刃のようだった。

 その眼光を真っ直ぐ受け止めて、来栖は不機嫌そうな顔を奥に引っ込めて鼻を鳴らす。



「自分の所有物をどう使おうが構わないだろ」

(所有物!?)


 くつくつと喉を鳴らして、来栖は千夏を視線で舐める。
 言葉の意味を理解するのに、そう時間はかからなかった。

 恥ずかしいのと、何様俺様来栖様発言に、ふしふしと怒りがこみ上げる。


「誰があんたなんかの……!」

「そうだね」


 にっこり。
 笑って、そして怒っているような瞳を来栖にぶつけながら、駿は千夏の腕を握る来栖の手を取った。





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