「そう、あれの血が半分俺たちには流れているわけ……年々、薄れてきてるけどね」
「どういう、こと?」
駿は缶ジュースをあおった。
震える喉仏を見つめ、千夏は会話の続きを待つ。
ふぅ、と一呼吸してから、駿はゆったりと話し始めた。
「こすれあう次元と次元の間には、実はね、ちょっとした隙間があって、クッションみたいな役割をはたしてるんだ。でも何百年、何十年、時には秒単位で穴が空いちゃう」
次元。
確か──と千夏は思い起こした。
来栖もそんなことを言っていたような気がする。
さっぱりわからない話だったので、受け流していたのだが……あれはいつだったか。一昨日だろうか? それとももっと前──
「そっから出てきたものが何なのかは、……もう知ってるよね?」
千夏は頷きのみで答えた。
「俺たちは奴らを《這出者》って呼んでる」
「はいいずるもの?」
「そう。遠い遠い昔から奴らはこの次元──あ、俺たちがいるこの世界のことね」
「うん」
「ちょこちょこ顔を出しては、侵略をふっかけてたみたいなんだ」
侵略、防戦。その繰り返しの未来が今なのだという。
それは悲しいことに今もなお現在進行形で起こっている。
事実、なのだろう。
千夏も自分の目で、しっかりと彼らの姿を見たのだから。
「過去に何があったかはわからないけど……いつかの昔、這出者の数名と和解した人間が、奴らと交わることで俺たちのような半端者が誕生したって話」
良いか悪いか。
力の半分を得ることが出来たそのお陰もあり、防戦の力は飛躍的に上がったのだという。
そうして何千年、何百年と攻防を繰り広げ──ここ数年、その頻度は異常に増えている、と駿は語った。
「あ、あの」
「ん?」
「戦うって、私はここでしか見たことないけど……あの怪物みたいなのは、どこにでも現れていたの?」
ふと、疑問に思い千夏は問いかけた。
奇怪な事件というのはどこにでもある。
もしその全てが、原因が、あの怪物のようなものの仕業だったとしたら……
平和であることを疑わなかったこの世界は、実はとてつもなく物騒なことになっていたのではないだろうか?
千夏は不安になった。
「次元と次元の間に起こる摩擦は、そう珍しいものではないけど、穴が出来るほど強力な場所はそうそうないんだ」
「なら、ここだけなの?」
駿は、ふっ、と笑った。
(肯定、ととってもいいのかな?)
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