などと、人の心配をしている余裕など千夏にはなかった。
「──ということで、今年の補佐委員は来栖と朝比奈の二人ということでいいですか?」
学級長の問いかけに「意義なし」の声がまばらに響くのを、千夏は頭をかきむしって耐えていた。
(意義あり! ありまくりっ! 全っ然良くない!!)
満場一致で大決定した補佐役員の称号に、否定したいのに出来なく、反論したいのに口に出来なくて……
何でこんなことになってしまったのかと、千夏は顔を真っ青にしながら考えた。
──早速、睦美と幸也、二人から聞いたあれこれがHRで議論されることとなったのである。
綾蘭学園、二学期怒涛のイベントラッシュの根元が実行委員ならば、それを支え、現場で生徒たちを仕切るのが補佐役員なる委員の役割らしい。
そうでなくとも大変な数のイベントをこなすだけで疲れるというのに、更に負担を身体いっぱいに背負いこむ補佐役員なる委員に誰も挙手などはしなかった。
毎年そうなのだと、睦美からは聞いている。
祭りは好きだが上に立つのは苦手故、勿論、千夏もクラスメート同様、沈黙を守っていたのだが──
「立候補します」
誰も予想だにしなかった声が、それも想定外の人物からあがったのだった。
来栖刀護である。
これにはちょっと驚いた。
やたらと機嫌が良いとは思っていたのだが、彼もまた、人前で何かをやるような人物ではない。少なくとも千夏が知っていた来栖刀護という人物はそうである。
他者と壁を作り、独特の世界を築き上げていたあの男が──本当に、一体。何の気紛れを発生させたのか。
驚きと、誰もが拒む役割を自ら背負いこむなんてと、うんうんと頷いて感心していたら、何やらクラスメートたちの視線が千夏に集まっている。
好奇の目。
憐れみの目。
種類は様々だが、どれも同じくほっとしている色が伺えた。
「え? なに?」
注目を浴びるのは好きではない。
居心地の悪くてそわそわしていると、もうひとり、クラスの視線を集めていた来栖と目があった。
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