『話したいことがあるんです。今から出てきてもらえますか?』



 ──何で私の番号知ってんだろ?

 その疑問を深く追求する頭はその時はなかった。今ならば、そのおかしさに気づけるものの、何の疑いもなしに返事一つで頷いた。





 呼び出されたのは普段、通学路として利用している通りの途中にある学園から程遠くない位置にある小さな喫茶店だった。

 閑古鳥が鳴いている店である。その日も客らしき客は見あたらず、店内にはカップの代わりにナイフを磨いていたマスターと思われる青年が一人。
 そして店の隅──闇を背負って茶をすする来栖少年のみだった。




『やあ、朝比奈さん』


 クラスでは決して見せたことのない笑みで、来栖は千夏を迎え入れた。


『話ってなに?』

『立ち話もなんだから、まあ椅子に座って』


 ナチュラルに椅子を引かれて、促されるまま腰を下ろす。

 その後の話は実はあまり覚えていない。正確には最初は真面目に聞いていたつもりだったのだが、異次元の会話についていけなくなったのである。

 一通り満足いくまで喋らせて、出されたアイスコーヒーにたっぷりミルクを入れて口にする。

 甘味とほどよい苦味が舌を楽しませ喉を潤してくれた。





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