心地の良い鈴の音と、軽やかに舞うひとりの少女。

 誰もが目を見張るような華やかさもなければ、技術もそれほど卓越しているわけではない。

 けれども、何故か目が離せなかった。

 それもそうだ。
 彼女は極めて限定的な種族を虜にする舞姫。

 彼女の内に秘められた色香にこの場にいる誰もが、時を進めることをやめている。



 ふと、空間に入り混じっていた気配が弱まり、少女の舞に釘付けになっていたことに気づいた来栖刀護は狼狽えた。
 無理やりひっぺがすようにして、視線を剥ぐ。

 誰も見ていない──見ているのはあの少女の舞だけ──のに、彼は慌てて己を取り繕う。

 改めて空間に視線を走らせると、上半身だけ這い出していたそれは、音もなく静かに、再び穴の中へ潜っていくところだった。



(……舞鎮師、か)



 朝比奈の娘たちが代々引き継いでいる特殊な能力──舞で鎮める力。

 ある時を境に、ぷつりと途絶えた血族が、こうして再び、次元の狂いとともに現れた。

 ──血を後生に残すための、ただの道具だとも知らずに、よくもまあ、のこのこと。


 ふん、と鼻を鳴らして、来栖刀護は憐れみを含んだ嘲笑を浮かべたが──なおも舞続ける少女の姿に、やさぐれたった気持ちが不思議なことに鎮まっていった。



 来栖刀護は顔を上げた。

 頭上に広がる鮮やかな桃色。

 枯れたとばかり思っていたこの木が、狂い咲きを始めたのはいつだったか──



 ざわめく桃花に守られるようにして舞う、朝比奈の娘。


 確かに桃の木は予兆していた。
 鎮める力を持った舞鎮師の到来を。


 


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