「冬花ちゃん冬花ちゃんっ」

「冬季くん」



 千夏の隣で佇んでいた冬花に抱き、少年は彼女にすがりつくように泣きじゃくった。

 ぎゅっと手と手を握り合う。

 怖かっただの酷いんだよだの、少年はぶつぶつと文句を零す。
 唖然としながら見守っていると、少年ははっとしたように声をあげた。



「この方が?」

「そう。この子が」


 手と手を取り合って、まったく同じ動作で千夏の方へ顔を向ける。

 背丈も同じ。
 顔のつくりも瓜二つだといってもいい。

 違いといえば髪の長さぐらいの、まるで合わせ鏡でも見ているかのような錯覚に陥る。



「……双子?」



 冬季と呼ばれた少年は照れくさそうにはにかみ、冬花は無表情のまま──そのまま顔を前へ向けて、ソファーにふんぞり返る来栖刀護へ深々と直角に頭を垂れた。



「会長、お連れ……しました」



 それは絞り出すような声だった。
 千夏は違和感を覚えて冬花を見る。

 凛としている佇まいは変わらずに、けれど、怯えているようにも見えた。

 そうまるで──



「お前にもう、要はない」



 返答は突き放すような言葉だった。

 びくり、と肩を跳ねらせた冬花にさして気にする風でもなく、来栖刀護は冬花から千夏へ再び、愉しげに細めた瞳を向ける。

 くいくいと指を折り曲げ、こちらへ来い、とでもいいたげに手招きしてきた。



(冗談じゃない。何様!?)



 クラスで見せている姿とはまるで違う。
 偉そうにふんぞり返ってとてもふてぶてしい。

 見下されているようで──いや、見下しているのだ。


 千夏は一歩も動かず、その場から離れなかった。代わりにがんをくれてやると、来栖の表情が変わった。

 愉しげに細められていた瞳は今、不機嫌色に染まっている。

 じっと、互いに引かず睨み合い、先に折れたのは来栖だった。

 気だるげに組んでいた足を組み替えて、



「……まあ、いい」



 とだけ口にした。そのままつと、視線を下へと向ける。



「自分で何とかするんだな」



 何を──?
 と疑問を口にするよりも早く、その答えは突然、足元からやってきた。





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