連れてこられたのは生徒会室だった。

 役員のみと限定されている空間に足を踏み入れたことがあるのは、一般生徒の中では千夏が初めてかもしれない。

 プレミアである。
 自慢話になるだろうか。

 そんなことを考えながら、失礼にならない程度に室内へ目線を動かした。

 すべて木材で出来ている綾欄学園は、歴史を感じさせる学校だ。
 だが一部区間──この生徒会が牛耳っている区間のみ、コンクリート製で何年か前に増築されたのだと聞いている。

 外から見ても、木造校舎にくっ付くよう建てられたこの区間は大変おかしな存在感を放っていたが、中はさらに奇抜だった。




「……玄関?」



 室内の中に更に扉があった。それも高級マンションなさがらの豪華さを放った玄関扉のようなものが幾つかあった。

 扉の横にはチャイムと、名札のようなものまで貼り付けられている。

 ここは学園の中、のはずなのだが。



「あ、あの」

「こっちよ」



 困惑する千夏を置いてけぼりに、冬花は優雅な足取りで奥へと進んだ。千夏は慌てて付いて行く。

 幾つかの玄関を素通りした奥には、一際豪華仕立てな扉があった。



「はいって」


 と言われても、すぐには足は動かなかった。
 戸惑う千夏に呆れとも嘲りともつかない溜め息をついて、冬花は千夏を強引に中へ押し入れた。


(ちょ、ちょっと――っ!)



 つんのめって、中に入ってずっこける。

 四つん這いになりながら、衝撃に歪めた顔を上げると──暗闇の中で輝く、あの桃色が視界いっぱいに飛び込んできた。



 


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