おっかなびっくりで学校へ行くと、いつも通りの日常が千夏を迎えてくれた。

 本当にいつも通りだった。
 駿の姿が見当たらないのは気になったが、睦美も幸也もそのままで、クラスの空気は普段のそれとまるで変わりない。


 けれど、いつも通りがかえって不気味で、窓際の一番後ろの席──そこで、周りと壁を作り、雑誌やらゲームやらに夢中になっている少年の普段通りの姿がやけにかんに触った。



(なんなの、アイツ)



 ちらりと目を向ければ、ぱちりと合って、何食わぬ顔でへこへこと笑って見せるのが非常に腹立たしい。


 ──昨夜のは間違いなく来栖刀護。だったはずである。


 あの獣じみた瞳はすっかり、顔の半分をしめる黒縁眼鏡で隠されてはいるが──奴だ。

 あの猛獣のような目で射抜かれた。耳を撫でる吐息はまだ身体に残っている……。

 思い出して、千夏は青ざめたり赤くなったりした。
 ぶんぶんと顔を乱暴に振る。



「なに赤くなってんの?」

「な、ななってなんかないっ!」

「またまたあ。そう、なんだかんだでよろしくやっているようならいいんじゃない?」

「睦美!」

「なに?」

「わ、私はあ、アイツなんかと付き合っては──!」

「はいはい。聞いたよ〜来栖氏に」



 一体何を。
 反発の言葉を途中で呑み込んで、千夏は睦美の言葉を待った。彼女はしししっと歯を出して笑う。



「二人っきりの時はいつも何してんのか、って」

「はあ?」

「『二人っきりの時ですか? 二人っきり……そうですね。顔を赤らめてとてもいい声で……あ、耳がとっても弱いんです』だってさ」

「────!?」



 絶句である。


(なななにをくっちゃべってくれてんの!?)






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