あの刀は?
まいちんし?
とは一体なんなのか──?
けれど巌はそれ以外は教えてはくれなく、考えていたらすっかり朝になっていた。
千夏は寝不足でふらふらする身体を無理矢理起こして、父の姿を探した。
けれども、巌の姿は家のどこにも見あたらなかった。
諦めて台所へ向かうと、食卓に並ぶ朝餉の隣に「でかけてきます」との書き置きがあった。
既にどこかへ出掛けてしまった後らしい。
「どこに行ったんだろ?」
まだ定まらない頭で父の行方を考えたが──まあ、どこで何をしていようと問題はあるまい。
そう頷いて、まずは朝餉を口にすることにした。
食事を終え、登校の支度を開始する。
持ち物の確認を終えてからじっと鏡を覗き込んで、千夏はしげしげと自分を観察した。
正直、覇気のないその顔は不細工だった。
しかも目の下に出来たくまがより一層拍車をかけている。
たった一日で。
そう。たった一日で少し痩けた頬は、えらく自分を老けさせて見せた。
「なんだかなあ……」
はあ、と溜め息をひとつ落として、気だるげに櫛を通した。
通りの良い真っ直ぐな黒髪を丁寧に解かして、オレンジ色のシュシュで軽く縛ったそれを横に流す。
今一度、出来上がった己の顔をまじまじと見つめる。
くま隠しを施したおかげもあって、幾分か見れる程度にはなっていた。
「…………」
鞄と鍵を手にして玄関へ向かう。靴を履こうとして、千夏はぴたりと止まった。
正直な気持ちをいえば、行きたくなかったからだ。
夢なら夢でそれでもいいと思っている。
けれど、それはただの願望だ。
一体、どんな顔で会えばいいのだろう──と不安に襲われる。
(考えていてもダメ。睦美たちもきっと心配してると思うし……)
半ば強引に具合が悪いからと切り上げてきたのだった。多分、心配している。
「……、いってきます」
主のいない家に向かって言葉をひとつ置いた。
やるせない気持ちを無理矢理押し込めて、千夏は母屋を飛び出した。
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