千夏は握ったそれへと目を向ける。
淡い黄色の光りを放つそれは、鋭利な曲線を描いていた。
刀──
「うひゃあっ!」
驚いて、思わずそれを手放した。
落ちた刀がさくりと地面に突き刺さる。
「ちょ──! お父さん、何、この物騒なものっ!」
「刀だ」
巌はしれっと言った。見ればわかる。訊きたいのはそんなことじゃない。
何でこんなものを父が持っているのか。誰かに見られでもしたら銃刀法違反でお縄を頂戴される──!
だが、動揺を隠せず、次第に青くなっていく千夏とは逆に、巌は「鳴ったな」と満足そうに頷いていた。
「こいつはな、朝比奈家宝刀《三日月》だ」
「みかづき?」
転がったそれへと視線を走らせる。確かに、それは月を連想させる光を放っていた。
形も、三日月型をしている。
「千代、そしてお前の婆さん。ずっとずっと昔から、朝比奈の娘たちが守ってきたものだ」
「お母さん、が?」
こんなものを?
更にわけがわからなくなる。
「そうだ。朝比奈の名を継ぐ娘には舞で鎮める不思議な力があってな──今より、お前が当代の《舞鎮師》だ」
荒唐無稽な話に、千夏はただただ呆然とするしか出来なかった。
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