降りる沈黙の帳(とばり)。
それを剥いだのは犬飼駿だった。
「朝比奈本家上層とも話はつけてます。後は、神楽坂巌──あなたの了承ひとつだけです」
負けじと眼光をぶつけるその若者に、巌は腕を組み直し、鼻を鳴らした。
「回りくどいな。千夏をよこせ、ということだろ?」
「簡単に言えば、まあ……そういうこ」
「やらん!」
「早っ」
カッ、と眼をかっ開き巌はついに稲妻を落とした。
「何度でも言ってやる。千夏はやらん! 来栖の糞餓鬼に言っておけ! 貴様のような猛獣に千夏は絶対にやらんと!!」
「いや、しかし。巌殿。最早、来栖の血は弱まるばかり。……娘殿を今この時期にこちらへ呼び寄せたのは」
「……猿、お前は黙れ」
口を挟んだ猿渡豪に巌は憤怒の睨みを浴びせた。慌てた雉間智が、下がるように豪を諭す。
「どちらにせよ──今回は過去の規模とは比較にならないほどに酷い。お力添えをお願いしたく参上仕りました」
「……」巌は難しい顔をした。
「契りは兎も角とし、……というか、反対を押し切ってまで古のしきたりに従うつもりもないしね。何とか俺たち、えっと……わたくしたち? で当主を抑えてみることも出来ると思います」
俺たちは来栖家のみに仕えているわけではないからね。と、駿が眉尻を下げて苦笑する。
「では、夜分遅くに失礼申し上げた、でござる!」
「良い返事を期待してます」
「じゃあね、おやすみ」
猿が、雉が、そして犬が、それぞれ言葉を置いて風のように消えて行く。
嵐のような三人組が消えた後、辺りは忘れかけていた静寂を取り戻した。
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