きゃんきゃんと騒ぐ、背後の三人組。
置いてけぼりをくらう千夏をよそに、あれだこれだと討論を始め三人は結局、大反対する千夏を押し切って付いてきた。
千夏の父へ、正式に挨拶に行かなければならない。
早かれ遅かれやらなければならないことのひとつだからと、そう言ってきかなかったのだ。
「知らないからね。本当に知らないんだからね!」
ちらり、と三人へ目を向ける。
三人は、そこだけは決まって口を揃えて「大丈夫だ」と言い切った。
何を根拠に言っているのかわからない。
けれどそこまで確信を持って言い切れるのならば、何かあるのだろうか。
不安に駆られつつも三人に諭されるように、千夏は《神楽坂武道館》の門をゆっくりと押した。
ギィ、と木と木が擦れる音がなり、母屋に続く石畳を歩いて行くと──
「た、ただいま」
家の前でどでーんと仁王立ちしている和服姿の男を見つける。千夏の身体に緊張が駆け抜けた。
──父、巌である。
巌は千夏へ向けていた目をその後ろへと向けて、眉間に深くしわを刻み込んだ。
まずい。
かなりまずい。
普段は厳しくも優しい父であるが、ある事柄については人が変わったように豹変する。
娘を溺愛するがあまりの行動ゆえ──というのはわかっているのだが、何事も限度がある。
その限度をいとも容易く強行突破する男──それが千夏の父、神楽坂巌(かぐらざかいわお)だ。
たらたらと冷や汗を流して、千夏は必死に言葉を探した。
何て言おうか。
いやそれ以前に何を言うべきなのかわからない。
まさか、信じてもらえないかもしれないけれど凄く怖いめに合って──などと、いちから説明するべきなのか。
カタギもかくやと、憤怒して暴れ始めるであろう父を、千夏はおどおどと見つめるしか出来なかったのだが、予想に反して、父は冷静だった。
「三本槍か」
冷静に。けれどもやはり、不機嫌そうに。
控える三人を目にして、巌は唸った。
何故父が、そのことを知っているのか──?
だが、横槍を挟める余裕などなくて、千夏はぐっと呑み込んだ。
「はっ。お初にお目にかかります、神楽坂巌殿。拙者は──」
「何の用だ」
「……半年。もう長引かせるのも限界かと」
「それで?」
言葉は短く、けれど重厚に。
歳月を重ねてますます磨きのかかった威圧感に、千夏は──後ろの三人も含め言葉を無くした。
[*前] | [次#]