行きとは逆に帰りはのほほんとした会話が弾んだ。
何もないなら何もないでそれでいい。
少し残念な気もしないでもないが、幽霊やらその他遭遇したくないものに出会うよりずっとましである。
階段を下り、体育館倉庫へと逆戻りしていたその途中、ふと背中が寂しくなって千夏は後ろを振り向いた。
──いない。
しんがりを任されていた二人の姿が消えていた。嫌な予感がした。
「ま、待って!」
「どうした?」
「駿くん、と、く、……来栖がいない」
二人も千夏に習って後ろを確認し、渋い表情を浮かべたが、それはすぐさま苦笑いに変わった。
「便所だろ」
「で、でもさ、何も言わないで行くなんてちょっと考えられないじゃない?」
「そんな心配しなくても大丈夫だって。先行って待ってよ?」
「女の子ならともかく、あいつらも一応男だ」
大して心配もせずに行くぞ、と促された。
千夏はその場に佇んだ。
直感はお世辞にも良いとはいえなかったが、何かが。身体の何かが警鈴を鳴らしていた。
嫌な予感がする。
次第にそれは強くなった。
弾かれるように背後を振り向き、闇の向こうへ視線を向けた。
「やっぱり、私ちょっと探してくる!」
制止の声を振り切って、千夏は再び学園の奥へと足を運んだ。
睦美の呼び止める声がどんどん小さくなってきた頃、身体がぐらりと傾いた。
瞬時に体勢を整えるが、身体の揺れはおさまらない。
どうしてしまったのか。
ふと、足元に目線を向けて──千夏は驚愕した。
「な、なにこれ!?」
地面がぐにゃりぐにゃりと波打っている。
立っていられなくなり地面に伏して目を閉じた。
揺れがおさまるまで絶えていて、止んだところで瞼を開けると、驚きが再び千夏を襲った。
眼前に見たことがない門が聳え立っていた。
よく見ると寂れた文字で《生徒会》と書かれてある。
誰に言われるわけでもなく、我知らず千夏は自然と悟った。
「裏、生徒会……?」
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