談義は場所を移して続けられた。
日はまだ長い。
本格的な秋が訪れるのはもう少し先のようだ。
心僅かに高くなった空を見上げて、繰り広げられる会話に千夏は耳を傾けていた。
「生徒会といえば、そういえばさ、知ってるか? 学園七不思議」
「ああ、知ってる知ってる」
不意に入れ替わった会話に、思わず千夏は反応を示した。睦美が苦笑を浮かべる。
「ああ、千夏は春に越してきたばっかだもんね、知らないっか」
「なんでもよ、裏生徒会ってもんがあるらしい」
「裏生徒会?」
「いや、詳しくはわからないんだけどよ、どうやら夜になると有りはしない空間が忽然と現れるんだってよ。で、そこには裏生徒会って呼ばれる禁断の部室があるって話」
学園の七不思議というのはどこの学校にもあったりする。
以前通っていた高校にもそんな話の一つや二つはあったものだ、と千夏は思い出す。
ベートーベンの目が動いたり、トイレの花子さんがいたり。校庭を走る二宮金次郎像などなど。
今ではそんな像が置いてある学校の方が珍しいから、所詮は古き良き怪談の一つとして夢物語の位置付けで、千夏の中では括られている。
だから、初めて聞くその七不思議は斬新といえば斬新だった。
「じゃさ、今回はそれにしない?」とは睦美。
「あ、いいかもな! 学園七不思議ツアーとしゃれ込みますか」と乗り気な意見を上げたのは幸也だ。
千夏も正直なところ興味がある。
祝いを抜きに、普通にやりたいと思った。
「……俺はちょっと、怖いの苦手だし、反対」
「ぼ、僕も反対です。朝比奈さんをそんな危険なところには向かわせたくないですし」
けれど、簡単に決行とはいかなかった。
来栖はともかく、そうか。苦手なのか。怖いの。
「…………」
今のところ二対二である。興味に走ればツアーに参加したいとこだが、苦手だというものをごり押しするは少々引けた。
仲間でやるのはいつだってみんな一緒が鉄則だ。
今回は普通に食事にしよう。元々それが希望だったわけだし。
「今回は──」
「ダメ!」
止めにしよう。そう言いかけて睦美の声に遮られた。
「だよな、一夏の終わりに身の毛もよだつ学園ホラーっていうのもまたおつだろう」
リーダー格の二人には決して逆らえなかったのだった。
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