その日の放課後。

 授業が終わるなり素早く退散する者、部活に向かう者、談笑に花を咲かせる者。

 いつもの光景が当たり前のように広がっている。

 また千夏もいつものように、仲の良い面々でこれからの日程を立てていた。ただ、おかしな分子が一人混ざり込んでいる。

 げんなりする千夏の顔を睦美はむぎゅむぎゅとつねってきた。



「いひゃい」

「そんな顔してるあんたが悪い。一体誰の祝いの為にこうして集まってると思ってんのよ」

「別に頼んでなんか……いひゃい」



 ぎゅいーと更に頬を強く引っ張られて千夏の瞳に涙が浮かぶ。
 笑う友人ら、に混ざって一緒に笑う来栖刀護。


(なによー! 全部あんたのせいじゃないっ!!)


「それより、どうするよ? 朝比奈の祝い、と新たに仲間入り決定な来栖の祝い」


 仲良しメンバーのリーダー格である幸也が話を仕切る。
 何かと理由をつけてどんちゃん騒ぎをしたい仲間内では今や恒例行事と化している《祝い》。

 今回は有り難迷惑にも千夏とクラスの一匹狼──千夏的には孤立の変態の間違いじゃないのかと思っている──来栖刀護カップルのめでたい祝いが行われるらしい。

 相手が、そう相手が彼だったのならば素直にうんうん喜んでいたに違いないのに──と内心ぼやきながら、千夏は話の流れを見守った。

 最早、今否定したところで誰も話は聞いてくれない。
 ならば、時期を見計らって説明出来るその日まで、ひたすら耐えるしかないと不覚にも今は諦めた。



「カラオケは王道すぎるだろ? 花火、ていうのもなんかな」

「普通に食事でもいいんじゃないっ?」


 はいはーいと挙手してにこやかに発言した駿に、千夏は高速で賛成した。
 祝いなんて本当はいらないのだ。ならばご飯を食べて終わりなその気軽さでいい。


「却下」

「そうだよ駿くん、今回はビッグな出来事だからね」

「だよな。普通じゃないのが燃える」



 ──頼むから。普通にしてくれ。



 輪の中に入れずに祈るように談笑に耳を傾けていると、凛と張り詰めた声が廊下から響いた。



「要のないものは速やかに下校しなさい」



 立ち上がって廊下を見に行く。

 生徒たちの群れを真ん中から割って、中央を凛然と歩く集団に目が行った。

 《生徒会》と刺繍された腕章。
 生徒たちのトップであるその証が眩い。

 誰もが畏怖の念を込めて速やかに指示に従いクラスを飛び出して行った。

 それらを見送り、ふと、役員の一人と目が合った。日本人形のような、不気味な美しさをもった少女である。

 彼女は鼻にかけるわけでもなく、ごく自然に話しかけてきた。



「そこのあなた。そう、あなたたちもよ」



 静かでありながら、けれど有無を言わせないその圧力に千夏は「はいっ!」と姿勢を正した。相変わらず美しいけど恐ろしい。


 千夏たちは速やかに退散した。




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