結論から言おう。
めでたく、ここに新たな仲間(否! 犠牲者が!!)が加わることと相成った。
「ただし、条件があるわ!」
「条件?」
息するぐらい簡単に何を言わんとしているのか察することが出来るから恐ろしい。
「その石、アタシに頂戴ね! 絶対だよ!」
「いえ、これは……」
と否定したところで、このお方は聞く耳なんてもっていらっしゃるわけがない。
ここは諦めて、その印をうまいことどうにかして形として渡す以外彼女の逃げ道は残されていないだろうね。
──で、だからといってこの事実が外へ漏れることを今の僕は望んではいなく。
出来るだけ。限りなく出来うるだけ。なるべくならば、何事もなかったかのように。
謎の姫君を隠すことにした(主はまったくその気はないようであるが)。
進むべき道、一体この生きた伝説が最終的に何を取るのか。何色に染まるのか。
僕は見届けなければならない。──たとえそれが僕の望み通りにならなくとも。
「……ホントに出来んのかな、俺に」
さて、話を少しだけ進めることにする。
謎の姫君を匿い、イツキ殿の処遇が決まったある日のことだ。
ぶん、と木刀を一文字に薙払い、イツキ殿はそれをまじまじと見つめる。
結局、イツキ殿が異世界人以外、何一つわからなく、処遇に迷った学園の学者一同はとりあえずイツキ殿を我が主アルトリア・メルセディクの助手、兼、学園の生徒として迎えることに決定したようだ。
《メテンプシューコーシス専門職種技術学園》には、様々な学種、職種がある。その目的は失われた魔術の復活(様々な職種の専門家を集わせて知識をかき集めたところで出来るはずもないんだけどね。愚かな)で、日夜その道の頂点に到達した人間育成に力を注いでる。
(まあ、それだけではい。一応、そう遠くない未来に起こり来るであろう事態にも備えて、なんだろうけど)
人には生まれもって属性があるようで(不便だよね)、イツキ殿は無難に剣士課に配属されることとなり──現在、こうしてくそ真面目にも木刀を振ってる次第である。
いざ、戦闘となれば最強の部類に君臨する剣士。だが、それは極めて初めて(いやまあ、何でもそうなんだろうけど)発揮する。
これといって何も才能を見いだせなかったイツキ殿は、そう、無難なそこに入れられたのだ。
扱いやすさならば槍兵課の方がいいんだろうけど、彼は恐ろしく筋力がなかった。
「スポーツは嫌いじゃないけど得意ではなかったんだよ俺」
すぽーつとやらはわからないが、さい先が不安である。何であれ主が喚び出した彼のことだから、何かきっかけをもって此処へ来たのだと踏んでいたのだが……どうやら僕の予想を裏切る方向へ動きそうだ。
「いえ、イツキさまは素晴らしきお方でございます」と、僕の心の内を読んだように(いや、知らないのだから読めるはずがない)物静かな、けれど強さを込めた声が響いた。
「ルータァ」
振り向くと日の光から逃れるようにして木陰で休む謎の姫君・ルータァ(仮)の姿があった。
彼女はイツキ殿に柔らかく微笑んでいた。
ぽりぽり。赤く染まった頬を掻くイツキ殿。……この若さの男は実にわかりやすい。
「異世界にぶっ飛びました、そんでもってその世界を救いますは空想上の実に都合のいい物語の中でのみ発動するスキルだって身を持って知ったから」
何を言っているのだこの弟分は。
「慰めてくれてんだろ? だけど出来ないもんは出来ないからなあ」なんて言いながらも、美少女に応援されては悪い気はしないだろう。イツキ殿は鍛錬に精を出す。
「いえ、慰めではありません。だって、きっとあなたさまは──」
あなたさまは?
はて、何を言いかけたのか。ルータァは先を紡ぐことをやめて、ぴたり、と突然硬直した。
目を剥いてる彼女のその視線の先──がやがやと騒がしく(といったら一人しかいない)現れたやっぱりの彼女と、
「……。今までの出来事を免罪にするつもりなどないが、数百万歩譲って目を瞑ってもよい。だがアルトリア・メルセディク……」
「貴様、なんてことをしてくれたか!」
「なによー! 離してよっ!」
「これはどういうことか説明しろ!」
学者一同に連行される形で現れた主。
説明しろ! と指さしたそこに謎の姫君ルータァ(仮)。
もはや謎の姫君とあえて濁す必要もなさそうだ。
……これは大変やばいですよ。