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いつの頃からだろうね。
はっきりとその境界線を意識するようになったのは。


「碧翠様」

ちらちらと雪が舞うなか、佇む私の背後からかけられる声。
振り向かずともそれが誰かなどわかりきっている。
ゆっくりと背後に視線を向ければ、やはりというか何と言うか、フィズが肩掛けを持って佇んでいた。

「また寒い中外に出て……お風邪を召されますよ」

幼き日に出会ったその穏やかな眼差しを称えたそのままの瞳で私を気遣う。

「ああ……すまないねえ」

そっと私の肩に肩掛けを着せたフィズは、私の半歩後ろから私の見ていたように空を見上げる。

「何を、見ていたのですか?」

「雪さ」

「雪、ですか」

そう反復すると、再び視線を私から雪景色へと移す。
例年より少し早くに降り出した雪は、少しずつ辺りに白い化粧を施してゆく。
既にうっすらと白い衣を纏っているが、やがては全てを覆い隠すだろう。
そして春が訪れると、雪は解けて大地の汚れを洗い流すであろう。

「雪がお好きなのですか?」

それは、フィズにとっては何気ない……そう、ただの雑談のような。恐らくそういったつもりで発した言葉だろうが、私はそれに是とも非とも答えられなかった。

雪など好きではない。
だからといって、否と答えればそれは私の存在全てを否定することになる。
そこまで偏執的に嫌いになれない自分の甘さ、甘えに吐き気がする。



この境界線を越えれば、もう後には戻れないのだから。
(それはまるで墓標のトーテムポール)



「碧翠さ、」

「――お前は、」

黙ったままの私を不思議に思ったのだろうフィズの言葉を遮る。

「お前は、雪は好きかい?」

「私ですか?そうですね……好き、でしょうか。儚くも美しい季節のうつろいを感じることができますので。……寒いのは、少々困りますが」

そう言って小さく苦笑を漏らす。
今の私は、どんな表情をしているだろうか。


「……碧翠様?」


この境界線を越えれば、きっと今の関係を大きく変えるだろう。

それが良い方向か悪い方向かは、私には読めない。


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