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「氷月。今日は少し調子がいいから……私も、一緒に行きたい」

それは、ある晴れた秋の日の朝。
数日前から療養のために別荘にやってきたが、気候の変化のせいか着いた途端に調子を崩し床から出ることができなかったのだけれど、それが嘘のように今朝は身体が軽い。
だから……久しぶりに、外に出られそうな。
そんな、気がした。

「うーん……あたしは別にいいんだけどさぁ、」

「……お願い。無理だと思ったら、すぐに言うから」

襖の向こうに見えるいつも変わらない世界に、まるで私がこの"部屋"という絵の一部になってしまったかのような錯覚を覚えてしまう。

――そう。
私の世界は、いつだって部屋の中と窓の広さだけ広がる景色だけ。

まるで切り取られた箱庭のような、そんな狭い狭い世界。

「仕方ないなぁ……本当に無理しないでよ?」

「ええ……わかってる」

氷月以外に言えば止められるのは目に見えていたから、こっそり部屋から抜け出す。
幸い私と氷月に与えられている部屋は離れなので、運がよければ帰ってくるまで気付かれることはないだろう。


久しぶりに見た"外"の世界は何もかもが新鮮で、それだけで身体が軽くなったような気分になる。
吹き抜ける風は秋の気配。
もう間もなく……私たちの一族が支配する季節が訪れる。


……そんなことを考えてるうちに、目的地に着いたらしい。
私の手を引く氷月の足が、ぴたりと止まった。

「紗雪。中の様子見てくるからちょっとここで待ってて」

そう言うと氷月は、慣れた様子でその扉をくぐる。
それを見送ると、改めて私は辺りをぐるりと見渡した。
見たこともない様式の石造りの建物に目を奪われる。

しばらく前に氷月が言っていた、綺麗な町並みは……きっとここのことだろう。

私たちの住んでいるところとは違い、喧騒と活気に満ち溢れた空気はとても新鮮に感じる。
その普段触れることのない空気に目を細めた、そのときだった。


ぐらり。


視界が暗転し、途端に私の身体は重力に従い地面に膝をつく。
……どうやら、長い間日差しに当たりすぎたみたいだ。
くらくらと眩む意識の中で、どこか冷静にそんなことを考えてる自分がいた。
しかし、立ち上がることはできそうにない。

氷月が戻って来る気配はない。
誰か……誰か…………!


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