2 「あの……キミ、大丈夫?」 ぺたり。と額に冷たいものが触れた。 途端に意識はそこに集中し、おかげでなんとか気を失わずにすんだようだ。 「あ……なたは?」 目の前にいたのは、見知らぬ男性。 「……そこの路地から出てきたらキミが倒れていたんだ。それで……その、心配になって」 「そう……あり、がとう」 彼の肩を借りて少し先の木陰に移動すれば、少しずつ意識がはっきりとしてきた。 真っ白な髪と穏やかなその紅と蒼の眼差しに、一瞬目を奪われる。 「大丈夫?」 「ええ……もう少ししたら私の妹が来るはずだから」 「……そっか、」 私の言葉に、彼は少し残念そうに眉を下げた。 それを見て、なぜだろう……普段なら氷月が来るのが待ち遠しいのに。 このまま時間が止まればいいのに。と、考えている自分がいた。 「「あの……、」」 同時に口を開き、お互い顔を見合わせると、彼はくすくすと笑い出した。 「……?」 私が首を傾げると、ごめんね、と返ってきた。 「笑うつもりはなかったんだ。ただ……なんでかな。少し、嬉しくなって」 「そう、」 そう言ってはにかむ彼の笑顔に、なんとも言えない気持ちになる。 「あの……さ、」 「紗雪ー!」 改めて口を開いた彼の言葉を遮るように、聞き慣れた声が私を呼ぶ。 彼は私と氷月を交互に見て、数回瞬きをした。 「キミ、紗雪っていうんだね。……また、会えるかな?」 私は街の入口の方を指す。 「しばらくは……街の外れの白い家にいるわ。……ありがとう」 そして、ゆっくりと氷月の待つ方に向かって歩き出す。 なんでだろう、一歩彼から離れるごとに胸がもやもやとする。 「ごめーん、つい中で姫雪と話し込んでてさあ。あの人、誰?」 「さっきちょっと倒れそうになったときに……助けてくれたのよ」 「え、うそ?!大丈夫なの?」 「ええ。少し貧血を起こしただけだから」 「ならいいけど……あ、今日あんまり人いないみたいだから、また今度出直そうよ」 「……そうね」 少し後ろを振り返れば、既にそこに彼の姿はなかった。 そういえば彼の名を聞きそびれてしまったと少し後悔したが……その数日後、私が彼の名を知るのと彼との関係が大きく変わるのは……また、別の話。 |