薄桜に萌ゆ


ひらり、ひらり。
舞い落ちる淡い花弁が視界を覆う。
春の嵐とはよくいったもので、ごう、と吹いた一陣の風が満開に咲いた花をはらはらと散らしていく。
儚いその様は幻想的で、夢と現との境界が曖昧になってしまったかのような、そんな錯覚を覚える。

霞のように視界を奪われたその向こう。
空と花弁が混じり合った中に浮かぶ蒼色。空の青よりも深く鮮やかな蒼なのにどこか危うく、ともすれば淡い花霞に飲み込まれ連れ去られてしまいそうな、触れたらそのまま消えてしまいそうな。そんな感じすらある。

どこか遠くを見詰める貴方の視線の先の景色は、私の目には映らない。
貴方の目に映る景色は、今、どんな色をしているのかしら。
問うたら貴方はきっと、困ったように笑うでしょう。
貴方は、とても優しい人だから。

貴方の胸の内に咲いた花は、未だ色褪せぬのでしょう。
それでも私の中に芽吹き始めたこの想いは、いずれは何色かの花を咲かせるでしょう。

風が、凪いだ。
徐々に拓けていく視界。
今なら少し、前に進めるだろうか。
振り向いた蒼色に飛び込めば、空の青に桜色の飛沫が舞った。


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