フィズが買い出しに街中を歩く。

ちらりと空を見れば、陽が傾き始めていた。

「夕飯の支度をしないとですね。」

フィズがくすりと笑う。

抱えられた袋の中には、今晩の食卓に乗るだろう食材が入っている。

「よってらっしゃい、見てらっしゃい!」

ふと声に気を取られ、足を止める。

ピエロが宣伝用の赤い風船と青い風船を配る為に、立っているのが目に止まった。

同時に少女と少年がそれをじっと見つめ、どちらの色を貰おうか、ピエロの前で悩んでいるのも映る。

「じゃあ、てんのかみさまに決めてもらおう!」

しばらく迷いに迷って、男の子が元気良く言う。

女の子はそんな彼を見て、不思議そうな顔をしている。

フィズはその一連の流れを見て、くすりと笑んだ。

「天の神様…ですか。」

確かに幼い頃、自分も頼った事がある事を思い出す。

同時に、気が付けばそんなモノに頼る事がなくなっている事実と理由に、帰路への脚を速めた。

昔々、不思議な少女に会ったあの日が、彼の分岐点だったのかもしれない…とフィズは考える。

彼女にとっては気まぐれだった行為も、彼に印象を残すには充分だった。

風に揺れる柔らかな髪も、迷いのない美しく気高い瞳も、フィズはずっと忘れられなかったのだ。

「また、本当に会えるとは思いませんでしたが。」

綻ぶ口元は幸せを歌う。

もう何処で生きたいかなんて決まっているのだ。

人目を避けてオオスバメの姿に戻ったフィズは、真っ直ぐと碧翠の元に帰る。


神様の言う通り
(何かに頼らずとも心は決まっているから)


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