2 「よく考えたらさ、これってチャンスだと思わない?」 「うん?」 「だっていつもは泉麗が財布の紐握ってるけど今はいないんだよ?つまり買い放題!!」 ショップの中を歩きながらキラキラした目で言うソラに留嘉は苦笑した。 行き際に泉麗が「無駄づかいするなよ!」と言った忠告はどうやらソラには届いていないようだ。 「いくら入ってるかな〜♪…て、1000円しかないし!」 「泉麗にはお見通しだったみたいだね」 「ちぇ、本当オカンだなぁ泉麗め。それでいいのか成人男子ー」 泉麗がオカン化しなければならない要因の一つに挙げられるソラがそう言うのはどうかと思われる。 とりあえず目的の醤油を手にいれると、ソラは留嘉の手を引きアイスコーナーへと向かった。 ひんやりと冷気の漂うアイスコーナーには様々なアイスがあった。 その中の一つ、ワニノコがパッケージに描かれたアイスをソラは手にとった。 「こういう風にポケモンが描かれてるとやっぱ世界違うんだな〜とか改めて思うよね」 「向こうの世界にもアイスはあったの?」 「あったよ〜。黎韻が毎日食べてた。たしかにシンオウに比べて暑かったけど食べすぎ」 「へぇ……いいなぁ、」 ぽつりと漏らした羨ましげな言葉は自分の知らないソラとの時を黎韻が過ごしたことに対してだった。 だがソラはそれを毎日アイスを食べてたということに対してだと勘違いした。 「よしっ!それじゃあ留嘉はいい子だから特別に2個買ってあげよう!!」 「え?いや、僕は別に…」 「遠慮しなくていいよ!みんな買い物の時は籠に好き勝手いれてるんだからさー」 「あぁ…たしかにみんな凄いよね」 この旅の途中でソラたちはもちろん何回も買い物をした。 その度に次から次へと好き勝手に欲しい物を際限なく籠の中に入れていくソラたちを、泉麗が片っ端から怒鳴りつけるのだ。 しかも籠は泉麗が持っているため彼の心労は半端じゃない。 綺麗な微笑み一つで済ませる留嘉もなかなか肝が座っている。 仲間たちの分のアイスを留嘉と二人で選んでいると、ふとソラの視線が止まった。 「新作だ!あ、これもそっちも!」 「へぇ、美味しそうだね」 「うぅ〜ん……迷うなぁ」 かつてこれほど悩むソラを見たことがあるだろうか。 仲間たちのアイスはパッケージで選んだりと適当に済ませていたくせにだ。 腕を組んで真剣にアイスを選ぶソラが留嘉には可愛く見えて、思わず笑みが浮かんでしまった。 「それじゃあソラちゃん、僕はこれとこれにするから半分個しよう?」 「え?でも、」 「せっかく2個買ってもらえるなら、僕はソラちゃんが喜ぶ物がいいな」 柔らかに微笑みながらそんなことを恥ずかしげもなくさらりと言う留嘉は相変わらずの天然フェミニストだ。 たまたま目撃した女性らが頬を染めるほどの威力だった。 「っ留嘉、らぶ!!」 「ふふ、僕もソラちゃんが大好きだよ」 留嘉の両手を握りしめて喜びを表現したソラは店内だと言うことを忘れるほど嬉しかったようだ。 ショップのアイスコーナーの前で告白し合うことの異質さに本人たちは気づいてないが、生憎ここにそのことを指摘してくれる者はいない。 「じゃあ両想いだねー?」 「そうだね」 にこにこ微笑み合いながら会計を済ましに行くソラたちをショップ中の者たちが羨ましそうに見ていたが、もちろんソラたちは気づくことはなかった。 完全にバカップルだと見られていると知れば恥ずかしいだけなので、気づけなかったのは喜ばしいことだったのかもしれない。 千円ギリギリで会計を済ませれば、留嘉が自然な動きで袋を持ってくれた。 あまりに自然すぎて思わず反論の余地も与えられないほどだった。 「どうして留嘉だけはこんないい子に育ったのか不思議だよ」 「?」 「いやなんでもないよ…て、あぁ!?」 外に出た途端に声をあげたソラに留嘉も少しだけびくりと肩を跳ねさせた。 いつの間にか辺りは暗くなっていたのだ。 どうやらちんたら歩いて来た上にショップでふざけすぎたらしい。 とっくに夕飯は出来上がってしまっただろう。 「ま、まずい!」 「そうだね…魚料理に醤油がないとあんまり美味しくないかもね」 「いやそのまずいじゃなくて…あぁもういいや。留嘉、早く帰ろう!」 「うん」 「急げー!」 なんてことない日常 (そんな日常も、君といるだけで特別になる) 「よっしゃギリギリセーフ!」 「超アウトだ馬鹿!!」 《ワシもう腹減りすぎて死にそうじゃぞ!?》 「何してたん?」 「うーん…普通に買い物してただけなんだけどなぁ」 「どうせ主殿が原因でしょう?」 「アイス寄越せ」 |