1 「レイ君、お待たせー」 「悪いね玲士。せっかくのデートやのに邪魔してもうて」 「いや、構わない」 コガネ百貨店の1階ロビーの壁際に佇む長身の男に話し掛けたのは、青を基調とした2人組。 1人は柔和な雰囲気を称えた女性とみまごうばかりの青年。 もう1人は、ツインテールが印象的な幼女……と言っても差し支えないくらいの少女。 「そうだよー、ナミちゃん一緒なのとか今更じゃん。それより早く会場行こうよ、コンテスト始まっちゃう!」 早く早く、と少女……澪葵はその場で足踏みをし、待ち合わせの男……玲士の腕を引っ張る。 その光景はまるで親子さながらだが、2人はれっきとした恋人同士である。 自分の腕にしがみつく彼女をまんざらでもなさそうにぶら下げたまま、百貨店の自動ドアをくぐった……のだが。 「あらまー」 ここへ来たときとは打って変わって、ざぁああ、と滝のように降り注ぐ雨景色が目の前に広がってる。 先程まで快晴だったのが嘘のようだ。 「……あ、しもうた。傘、忘れてもうたみたいやわ」 突然の豪雨に、彼らはなす術なく立ち尽くす……かと思えば、澪葵はふっふ、と含み笑いを漏らし、かばんを漁りはじめた。 「うっふっふー。こーんなこともあろうかと、この澪葵ちゃんはちゃーんと傘を持って来たのよ!さあレイ君、あたしと"ラブラブ★相合い傘大作戦"を……、」 得意げに傘を取り出し、玲士の方を向いた澪葵はピシッと音を立てて固まった。 「れ……レイ君、それ、」 「……?折りたたみ傘だが」 タイプ上水が苦手な玲士が傘を持っていることは至極当然といえば当然だが、澪葵はそこまで予想していなかったのかあからさまにショックを受けている。 「なんでー?!せっかくレイ君と相合い傘するチャンスだったのに……そーだわ、レイ君ちょっとそれ貸して!」 「あ……おい澪葵、」 何かを閃いた彼女は玲士の手から傘を引ったくると、それを浪路へと差し出した。 「ナミちゃん、これ貸したげる」 「……貸すもなにも、これ玲士のんやろ?」 「いーの!ね、レイ君!傘がないならあたしの傘に入れてあげるわ!」 にこにこと玲士の方を向けば、小さく溜息をついて頷いた。 「澪葵、お前……まあ、別に構わないが」 「ほらね!じゃあレイ君、あたしたちは早速相合い傘よ!」 にこにこと澪葵は自分の傘を差し出した。 このとき彼が少しでも危険を察知できていたら……あるいは、この直後訪れる受難を避けられたかもしれないのだが。 |