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「ナンパ?」

玲士は眉を潜めた。
自分の彼女がナンパされたことによる不快感から……ではない。
なぜ、よりによってこんなちぐはぐなメイクをした彼女に声をかけたのか、疑問に思ったのだ。

しかし澪葵はそんな玲士の思いに気付くことなく話を進める。

「そうよ。あのー、お嬢さんって声をかけられたの。振り返ったら、ローブシンのおじいちゃんだったわ」

玲士の眉間のシワが一層深くなった。

「……それは道でも聞こうとしてたんじゃないのか?」

澪葵はううん、と首を振る。

「だってね、呼び止めたセリフが"あのー、お嬢さん"だったのよ!道を聞くなら"あの、お嬢ちゃん"のはずだわ!あのーってのを伸ばした上にお嬢さん呼び!これは間違いなくナンパなのよ!」

ぐっと力を入れてわけのわからない持論を力説する澪葵にいろいろ言いたいのをさておいて、玲士はとりあえず話を先に進めることにした。

「まあ、ナンパかどうかはおいておくとして……そのおじいさんはどうしたんだ?」

「うん。あたしの顔をきっちり10秒見て固まったあと、ダッシュで逃げてったわ。これはあたしがあまりに美しいから"ああ、ワシはなんて美女に声をかけてしもうたんじゃ。ワシとこの子じゃ正に美女と野獣じゃ、とてもつりあわん"って思って恥ずかしくて逃げたんだと思うの」

絶対に違う!……と、思いっきり否定したかったのだが、それをするとあとでまた恐ろしい目に遭う気がしてならなかったため、その言葉は唾とともに喉の奥に飲み込んだ。

「……それでだな、澪葵」

とりあえず気を取り直して、玲士は咳払いをひとつした。

「このあと、ポケスロン会場へ行くんだろう?いつもと違いすぎて、その……知り合いに会っても気づかれないんじゃ、」

「あは、だいじょぶだいじょぶ。みんなわかってくれるよー」

けらけらと玲士の懸念を笑い飛ばし、澪葵は玲士の腕に自らの腕を絡めた。
10cmの厚底のおかげで、いつもよりも幾分組みやすくなったことにさらにご機嫌になった澪葵は、スキップをする勢いでなじみの会場へと向かった。




……が、やはりいつもと違いすぎて顔なじみの友人に声をかけても怪訝そうな顔をされたことにショック受け、もう金輪際厚化粧はしない、と固く心に誓った澪葵だった。









彼女の暴走は止まるところを知りません(笑)

澪葵の行動指針は
「その日のテンションと気分と気温次第」
で、どこまでも突き抜けていくのです。


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