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「へぇ、澪葵がそないなことを?」

――翌日。
異常なしとのことで退院の許可が下りた玲士を迎えにきた浪路は、心底驚いたように目を丸くした。

「ああ。……浪路からも言ってやってくれないか。俺は別に気にしてはいないと、」

玲士の言葉に少し考え込んでいた浪路だったが、やがてひたりと玲士の方を見つめる。

「ふぅん……なぁ、玲士。少し、昔の話してもええ?」

「……?別に、構わないが」

「おおきに。……むかぁし、な。まだうちらが小さかった頃、2人で遊んでたらならずもんに絡まれたことがあってな。恥ずかしい話やけど、うち、怖ぁて何もできんかった。やけども澪葵は相手に一発水鉄砲をかましたかと思たら、次の瞬間うちの手を掴んで逃げたんよ」

あの子らしいやろ、と浪路はくすくすと笑う。

「……それで、やっと大丈夫なとこまで逃げたとき、あの子ぽろぽろ泣くんよ。怖かった、言うて。……澪葵、自分も怖いはずやのにうちが怖がってるっていうだけでそんな無茶するんよ。……そんなあの子が、うちには眩しいて、憧れやったん。そして、憧れと同時にうちが澪葵を守らなあかんって、そう思ってたん」

浪路は一度そこで言葉を区切り、真っすぐ玲士を見据える。

「うち、玲士とはまだ半年ほどの付き合いやけど、玲士がそうやって一人のことを気にするの初めて見たわ。そんなに澪葵、気になる?」

「まあな」

「……ごめん、ほんなら、聞き方変えよか。あの子……澪葵のこと、好きなん?嫌いなん?それともただの友達?」

「……っ!」

ストレートに投げられた浪路からの問いに、今まで全く動いていなかった玲士の表情がぴくりと動く。
そしてしばらく宙に視線をさ迷わせた後。
逃げ出す、という選択肢を思い付かなかったのか、顔を真っ赤に染めながら口を開いた。

「…………好きだ」

「本当っ?!」

彼が言い終えるか終えないか、というところで転がるように部屋に入って来たのは、誰あろう渦中の人物……澪葵。

「み、みお……?!お前何で、」

「ねぇレイ君、あたしのこと好きって本当?!」

「な……っ、」

あまりに突然の展開に顔を真っ赤にしてうろたえる玲士に、浪路はにこりと微笑んだ。

「正直に言いや。せやないと、せっかくうちが一肌脱いだん無駄になるやろ」

「一肌……って、まさかお前ら、」

「ほな、お二人さん。あとはごゆっくり」

「ちょっと待て浪路……!」

「ねーレイ君!レイ君がうん、って言えばあたしたち見事両想いなんだから!!ねぇってばレイ君!!」

「〜〜〜〜っ!浪路、聞いているのか!」

「いややわ、なーんも聞こえません。うち、耳日曜ですのん」

「ふざけるな!」

「あーもう!レーイーくーんーっ!!」

「っ?!」

答えを焦らされまくった澪葵は、どこからか取り出したフライ返しで玲士の頭を思い切りどついた。
当たり所が悪かったのか、玲士はずるずるとそのまま倒れ込んでしまった。


せっかく両想いにも関わらずどつき倒された玲士。
彼らの未来にちょっぴり不安を感じつつ、浪路はそっとその場をあとにしたのであった。






――そして、現在。

「レイ君ー!頭に強い衝撃を与えると背が縮むの本当なんだって!これでレイ君の背を縮めまくればあたしたちどう見てもベストカップルよ!さあレイ君、あたしの特製ハンマーでがしっと!」

「誰がやるか」

「ひっどい!ほら、彼女のお願い!」

「ほら、じゃない」

「えー、だってせっかく用意したんだしー」

なんだかんだで浪路の不安そっちのけで、半年以上続いている彼らの関係。
ほっとするとともに、次は玲士の寿命が縮まってしまわないかと不安になってしまう浪路さんなのでした。


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