理想の2人になるために


「うわぁ、見て見てあの父子」

「わ、すっごい美形!」

「きっとお母さんも美人なんだろうねー。いいなぁ、うらやましい!」

他愛のない通行人の言葉に、二人はムッと顔をしかめた。
彼らは父子ではなく……れっきとした恋人同士。
それも、デートの真っ最中だったのだから。

女は頬を膨らませ、そして男は盛大に溜息をついた。
これから起こりうる、惨劇を予想して……。





理想の2人になるために





「……澪葵、」

萌黄色の切れ長の瞳で、男は少女を見つめた。

「ん?どーしたの、レイ君」

澪葵と呼ばれた少女は、視線を目の前のそれから、レイ君……玲士の方へと動かした。

「いや、大したことじゃないんだが……その、それは何だ?」

それ、と玲士が指したのは、澪葵の前に並ぶ4つの紙パック。
そのどれにも、デフォルメされたミルタンクのロゴがプリントされている。

「見てわかんない、レイ君。牛乳飲んでるのよ」

「いや、それはわかるが……何でまた突然?」

すると澪葵は、バン、と机を叩いて立ち上がった。

「だってね!昨日のデートではまたレイ君と親子に間違われたのよ!すっごい屈辱的だわ!だからあたしは背を伸ばすべく、朝昼晩それぞれ1リットルずつ、一日3リットルの牛乳を飲むことを固く心に誓ったのよ!」

「なるほど……では聞くが、」

玲士はスッと澪葵の前に並ぶ牛乳パックを指した。

「それはどう見ても2リットルあるのだが?」

しかし澪葵は平然と答える。

「ああ、なんせこの計画を思い付いたのは家を出てからなのよ。だから、朝のと合わせて2リットル」

言うが早いか、手に持っていた3つめの牛乳をぐいと一気に飲み干した。

「……それはやめた方がいいと思うぞ」

「何でよ、彼女の頑張りを邪魔する奴は死刑って法律があるのよ、知らないのレイ君?ちゃんと憲法にも載ってるのよ」

そして、4つめの牛乳パックに手をかけたとき――

「今日は午後から試合だろう」

玲士の言葉にピタリ、と動きを止める。

「……激しく動かなきゃ大丈夫よ」

牛乳2リットル+ポケスロン=腹にくる!
という等式を振り払いつつ、4つめの牛乳に口をつける。

「しかし、今日は決勝だろう?」

「……何とかなるわよ」

全然何とかならない気もするが、澪葵にもとりあえず意地がある。
青ざめながら、4つめの牛乳を飲み干した。



ポケスロンの途中、気分の悪くなった澪葵が救護室に運ばれたのは……言うまでもない。


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