3 【証言18】 「ずるい!」 突然、女の子は叫びました。 「あんたがあたしを知ってるのに、あんたのこと教えてくれないのは不公平だ!」 それは屁理屈だと思います。 しかし、そんな女の子を見た碧翠さんは、楽しそうに笑いました。 『あっはっはっは!そうだねぇ、それじゃあ一つだけ教えてやろう。先代の碧翠から聞いたのさ』 【証言19】 碧翠さんの言葉に、女の子はぽかんとしていました。 「先代の碧翠?碧翠ってあんたじゃないの?」 『そうさ。碧翠はあたしであり、あたしだけではないのさ。これ以上は企業秘密。知る必要のないことさね』 碧翠さんは言いました。 碧翠という名前は、ずっとずーっと受け継がれているそうです。 誰が言い出したのか、それはいつからなのか。洞窟の賢女に捧げられた名前。 それが、碧翠。 【証言20】 『そんなことより、あんたたち。あたしに何か用があって来たんじゃないのかい?』 そうでした。うっかりしていましたが、花が咲くのは、たった一晩。 『何年かに一度しか咲かない花、ねぇ』 ふぅむ、と碧翠さんはしばらく考え込んで、そして。 『ああ、そうだ。思い出した。いいかい、北の奥から洞窟を抜けると、アルフの遺跡に通じている。その遺跡の側に、その花は咲いてるはずさ』 碧翠さんが言った場所は、おいらたちがいたところとは逆の方向でした。 【証言21】 『さぁさ、時間はないよ。早く行きな』 「あ、うん。ありがとう、碧翠さん」 女の子は走り出そうとして、一度振り返りました。 「ねぇ、碧翠さんに本当の名前ってあるの?」 彼女の言葉に、碧翠さんは少し寂しそうに笑いました。 【証言22】 洞窟を出たそこは、淡い青と柔らかい白の花の絨毯に月明かりがきらめいて、とても幻想的でした。 「う…わぁ、」 それ以上、言葉になりませんでした。おいらたちもです。 それくらい、とても綺麗な光景だったのです。 【証言23】 碧翠さんは言っていました。 『あたしの本当の名前はね。あたしにとってたったひとりの大切なひとが現れたときにしか、教えることはないのさ』 「そっか、なら仕方ないね。あたしじゃ、なれないもん」 女の子はとても残念そうでしたが、それ以上は何も言いませんでした。 【証言24】 東の空が白み始めたころ。 あんなに綺麗に咲いていた花は、不思議といつの間にかその花を落としてしまっていて、辺りはただの草むらになっていました。 「そんじゃま、そろそろ帰ろうかな。まひるもうっせーし」 おいらたちも、そろそろ元の水辺に戻らなきゃ。 「ねぇ、ウパーくんたち!」 別れ際、女の子はおいらたちを呼び止めました。 「また一緒にお月見しようね!それからさ、あたしの名前はね――」 それは、彼女によく似合う、とても素敵な名前だと思いました。 【証言25】 おいらたちはお月様が大好きだけど、もうふたつ、好きなものが増えました。 ひとつは、お月様みたいに神秘的な碧翠さん。 もうひとつは、お日様みたいに明るい―― |