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ざあざあと降りしきる雨の中。
濃紺の傘と、水色水玉の傘が並んで歩く。

濃紺の傘は浪路が、水玉模様の傘は玲士と澪葵が、それぞれ使っている……のだが。

「ねえ、レイ君。もう少し傘、下げてよ。斜めから雨が降ってきて傘の意味がないんだけど」

「そうは言われても、これでギリギリなんだから仕方ないだろう」

「むー」

こればかりは、仕方のない問題だ。
周知のことだが、彼女は背が低い。
2人の身長は、おそらく40cm近く違うだろう。

しかしその時。
澪葵は何かを閃いたのか、突然ぽんと手を打った。

「そうよ!きっとあたしがカサを持てばいいのよ!」

そして、玲士が持っているカサを奪う……が。

「……俺が濡れるんだが」

「……あら?」

確かに、背の低い方が傘を持ったところで意味はない。

「あ、そだ。なら、こうしましょう」

すると、澪葵はまた何かを思いついたらしい。
先程玲士から奪った傘を再び彼の手に押し付け、背中をよじ登り始めた。



――そして。

「……澪葵。これはなんのつもりだ?」

「ヘ?何言ってるの、レイ君。これはおんぶに決まってるじゃない。これなら、2人とも濡れないし。あたし的にはなかなかグッドだと思うの」

さも当然、と何やら1人で満足している澪葵だが、彼女の耳に聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。

「なんというか……親子みたいやなぁ、ほんま」

「なぁーんですってぇー?!いくらナミちゃんでもねぇ、言っちゃいけないことがあるのよ!」

「いや、せやけどねぇ」

しかし、浪路の意見は正しい。
どこの世界におんぶしながら相合い傘をするカップルがいるだろうか。いや、いまい(反語)

「……澪葵、いい加減に降りろ」

「何よ!レイ君までそういうこと言う?!彼女を何だと思ってんのよーっ!」

玲士にまで諭され、ふて腐れた澪葵は彼の手から取り上げた傘をブンブン振りまわす――――と。

がつ、と嫌な音がすると共に、玲士はその場で崩れ落ちた。

「キャー!レイ君!」

あろうことか、澪葵の振り回した傘が彼のこめかみにクリーンヒットしたのだ。
つくづく、運のない男である。

「大変。じゃあ行き先はポケモンセンターね」

言って澪葵は玲士の腕をガシッと掴み、そして道が雨で濡れているにもかかわらず、澪葵は彼を引きずってポケモンセンターに向かって歩き出した。

「ちょ、澪葵!玲士擦れとるよ?!」

ずるずるとやたら痛そうな音をさせながら引きずる様子を見て、流石に浪路が止めに入る……が、それくらいで止まる澪葵ではない。

「……うちが玲士運ぶさかい、澪葵、先にポケモンセンター行っときぃ」

「えー、やだよ。あたしレイ君の面倒見たいもん」

正直これ以上は彼の身が危ういので先に行ってて欲しかった浪路だが、諦めて溜息ひとつつくと玲士を背負ってポケモンセンター目指し歩き始めた。




●月×日▲曜日

今日ほど、人生を間違って生きてきたかと思ったのは、きっとしばらく前のあの事件以来だ。
澪葵は一体何を考えて行動しているのか……。
そもそも俺は、なぜ澪葵と付き合っているのか。それが不思議でたまらない。
あまり深く考えてはいけないのだろうが……どうしても考えたくなってしまう。
やはり胃薬を持ち歩くようにした方がいいのだろうか……。微妙なところだ。




――以上。
今までも、そして、これからも悩みつづけるであろう子羊の日記より。




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