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「アララギはかせー!」

ばたん!と研究所の扉が勢いよく開かれた。
そこにいたのは、山吹色の髪が眩しい女性。

「ハーイ、アスナにカイン。どうしたの、そんなに慌てて」

彼女はその容姿に違わぬ爽やかな声で突然の来訪者……アスナとカインを迎えた。

「そんなに急がなくても、今日中に来ればそれでよかったのに……あれ、ユイコは?」

「……博士、聞いて欲しいのはそのことなんだ!」

カインのその気迫に、アララギ博士と呼ばれた女性も表情を変える。

「……何かあったみたいね。奥で話を聞きましょう」

彼女は2人を促し、室内に招き入れる。
こざっぱりとしたその部屋は、彼女の人となりをそのまま表しているようだった。

2人が勧められるままテーブルにつくと、アララギはホットミルクを彼らの前に置いた。
一口口に含むと、さっきまで強張っていた彼らの表情が少し和らいだ。

「……さ、話してごらん?」

あらためて促されると、どこから話したものかと迷いが生じる……が、やがて口を開いたのはアスナだった。

「博士……ユイコが、LDSにかかったんだ」

「まさか、そんな……」

アララギは驚きに目を見開く……が、2人の様子を見て、何かを察したようだった。

「……詳しく、話してくれる?」

彼女のその態度に、2人は少し安堵の表情を浮かべる。

「……昨日、わたしら3人で買い物に行ったんだ。そんで、いつもみたいに別れて……今朝、ユイコの母さんから連絡があったんだ。ユイコが……LDSにかかった、って」

たどたどしくアスナがそこまで説明すると、そのあとをカインが引き継ぐ。

「博士……今から話すことは信じられないかもしれない。俺もまだ半信半疑なんだ」

カインのその真剣な眼差しに、アララギも彼らを真っすぐ見つめ、そしてゆっくり頷いた。
その返事を確認すると、カインはその口を開く。
「博士……LDSは不治の病なんかじゃない。何者かによって、意識がもうひとつのイッシュ地方へさらわれてしまうのが、LDSなんだ」

「もうひとつのイッシュですって……?」

首を傾げるアララギに、カインは頷く。

「その……なんて説明したらいいかわからないんだけど、もうひとつのイッシュ地方……つまり、パラレルワールドが存在するんだ」

先程広場で聞いたことを思い出し、整理するように一つずつ話す。

「そのセカイは夢で繋がっていて、俺たちは眠ることで他のセカイへ行けるんだ。……だけど、眠るんじゃなくて意思に反して他のセカイに連れて行かれた場合……これが、LDSになるみたいなんだ」

カインの言葉を何度も反復し、アララギはなんともいえない複雑な表情を作る。
今まで聞いたこともないその事実は、やはり受け入れ難いのだろう。
コーヒーを一口含んで口を潤し、

「ふぅん……正直、もうひとつイッシュがあるなんて信じられないっていうのが素直な感想」

静かに、そう述べた。
彼女のその言葉に2人は肩を落とす……が、でもね、とアララギは続ける。

「それを話すキミたちの目は信じられる。だから、私はキミたちの話を信じるよ」

ね、とウインクをすれば、2人の表情は途端に明るくなった。


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