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「――では、ユイコ。あとは頼みましたよ」

数刻の後。セルディアはひたりとユイコを見つめ、ゆっくりと立ち上がる。

「あ、はい。……でも、あたし、そもそもどこに行けば?」

首を傾げる彼女の言に答えたのは、アララギだった。

「それについては私から説明するわ。ユイコ、まずはサンヨウシティを目指して欲しいの。そこには私の旧友のマコモって研究者がいる。そのマコモから、あるものを受け取って欲しいんだ。その後のことはおいおい……もしくはマコモを通じて連絡するわ」

「サンヨウシティの、マコモさん?」

「そう。あの子ちょっと変わってるけど、きっと役立つはずよ」

ぱちんとウインクするアララギに、少しの間ユイコは考える素振りを見せ、そして。

「ふぅん……じゃあさ、壱樹。早速行ってみようか?」

へらり、とゆるく笑って、壱樹に問い掛けた。

「は……?ちょっとユイコ、本気で言ってる?」

「そんなに急がなくても、今日はここで休んで明日行けばいいのよ?」

壱樹の、そしてアララギの驚きの声に、しかし彼女は首を横に振る。

「うまく言えないんだけどさ、なんか、じっとしていられなくてさ」

じっとしてると、悪い方へ考えてしまいそうだから……と。
だから、できることがあるなら一歩でも前に進みたいのだと、彼女は言った。

「ほら、それに隣のカラクサまでなら半日ちょっとでしょ?今から出れば、夜までには着くしさ」

「あなたがそう言うなら、無理には止めないわ。……でもユイコ。くれぐれも気をつけて。このセカイのポケモンは、人間に対して良くない思いを抱いてるものも少なくないから」

「うん、ありがとう博士。じゃあ、行ってきます!」

そして彼女は壱樹の手を取り走り出そうとした……が、そのとき。

「ちょっと待った」

ぐい、と壱樹がその手を引っ張り返した。

「えー、なによー」

突然のことに前につんのめったユイコは抗議の声を上げる……が、そんな彼女を見た壱樹は呆れたように溜め息をついた。

「アンタさ、何も持たずに出発するつもり?カラクサまでに僕がダメージ受けたらどうするつもりだったわけ?それに万が一野宿になっても何もないなんてごめんだよ、僕は」

「あ……そっか。えへへ、ごめんね壱樹。何も考えてなかったや」

ユイコは笑ってそう返すと、壱樹は小さく目を見開き、そして盛大に溜め息をつき、

「はぁー……ちょっと待ってて。荷物、取ってくるから」

そう言うと、パタパタと再び奥の部屋へと戻って行った。


「なんというか……壱樹も大概うっかりやだと思ってたけど、ユイコと一緒だと壱樹がしっかり者に見えるわねぇ」

「えぇ……ほんとに」

これから先、彼女たちのの旅路に一抹の不安を覚えたセルディアとアララギだったが……幸か不幸か、その声がユイコたちに届くことはなかった。


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