4 「ハーイ、お待たせ」 アララギの白衣は部屋を出るときには真っ白だったはずだったが、向こうで何があったのか戻って来た今はあちこち薄汚れている。 そして、そんな彼女の横に一人。 ユイコと同年代か、少し年下くらいの少年がそこに居た。 肩に付かないくらいの前下がりの髪は、萌黄色。 彼はその少し目付きの悪い目を見開くと、アララギとユイコを交互に見遣る。 「ハカセ、もしかしてこいつが例の?」 「ええ、そうよ。やってくれるわね、壱樹?」 アララギの言葉に壱樹と呼ばれた少年はユイコに値踏みするような視線を遣る。 頭から爪先まで、そしてその視線をまた上に戻すと彼女と視線が合う。 ――そして。 「ふーん。トロそうな女」 それが彼、壱樹のユイコに対する第一印象であった。 「ねえ、あんたがほんとにこのセカイの"柱"なわけ?あんたみたいなのがほんとに僕らのセカイを、」 「――壱樹」 何か言いたげな壱樹だったが、それはセルディアによって遮られる。 う、と彼は小さく呻くと、その口を噤んだ。 「……話が逸れたね、ユイコ。紹介しよう。彼は壱樹。ジャノビーの壱樹よ」 アララギは壱樹の肩を叩くと、改めてユイコに彼を紹介する。 「ジャノビー……って、え、待って待って?」 彼女の知る限り、ジャノビーはポケモンである。 しかし、目の前に居る彼は紛れも無く人間の少年の姿。 そんなこと、彼女の常識の中であるわけが…… 「……あ、」 ふと、セルディアと目が合った。 そう。このセカイに来たときに、彼女は言っていた。 "人の姿を取ることができないポケモンは、生きていくことが難しい"……と。 「ええ、つまり――そういうことです」 彼女の視線の意味を察したセルディアは、小さく、しかしはっきりと肯定した。 改めてユイコは壱樹を見る。 言われてみれば、その目元は記憶の中のジャノビーに似ているような気もする。 「あー……続けてもいいかな?」 「え……あ、うん。お願いします」 突然の出来事の連続に驚きっぱなしのユイコだったが、苦笑するアララギの言葉に慌てて頷いた。 「壱樹はこの研究所で私の助手みたいなことをやっていてね。たまにさっきみたいにうっかり物をひっくり返したりすることもあるけど、なかなか優秀な子だよ」 「うっかりは余計だよ、ハカセ。……まあ、そういうこと。セルディア様に代わって、僕があんたのサポートをするから」 そう言うと壱樹は、フン、と鼻を鳴らす。 「んっと……あたしはユイコ。こっちのセカイのことはわからないけどよろしくね、壱樹君?」 「……壱樹でいい。こっちこそ、よろしく」 そして壱樹は差し出されたユイコの手を取ると、照れ臭そうに小さく鼻を鳴らした。 |