5 「……そうだ!博士、マガツも待ってるし、私らそろそろ行くよ」 「そうだな、早く行かないと……ユイコのいるセカイがどんな状態なのかもわからないしな」 それぞれパートナーとなるポケモンを受け取りしばらく談笑していたが、やがて思い出したように立ち上がる。 アララギはそんな2人を見て、頷いた。 「……今更私は行くな、とは言わない。だけど、ふたつだけ言わせて欲しいの」 まっすぐ交互に、アララギはひたりと彼らの瞳を見つめる。 「ひとつは、無茶はしないこと。もうひとつは、3人で無事に帰ってくること……いいわね?」 2人はそれを受け、しっかりと頷く。 「当たり前だろ、博士!ぜってーユイコ連れて帰ってくるよ!」 「博士、すみませんがあとのことは……、」 「ええ、任せて。キミたちのご両親にはうまく説明しておくわ」 アララギの返事を聞くと、彼らは安心したように息をつく。 「あと、これも持って行くといいわ。きっと役に立つから」 アララギが手渡したのは、モンスターボールや傷薬。 どれも旅には欠かせないものだ。 「ありがとう、博士!」 「ありがとうございます!じゃあ、行ってきます」 「いってらっしゃい!いい、くれぐれも気をつけるのよ!」 「うん、行ってきます!」 行こう、とそれぞれのパートナーを促し、彼らは研究所を飛び出した。 研究所からそう遠くない広場に走って戻れば、先程と同じようにマガツがくたびれたスーツ姿でベンチに腰掛けていた。 「ごめーん、お待たせーっ!」 「遅いぞ、てっきり気が変わって来ないものかと思ったじゃないか……ん?パートナーをもらったのか?」 「うん、博士んとこ行ってきたんだ。なぁ、早くユイコのいるセカイへ行こうぜ!」 早く早くと足踏みするアスナを、まあ待てと制し、マガツは立ち上がって埃を払う仕種をしてから2人をじっと見据える。 「最後にもう一度だけ念を押しておく。向こうで何が起こっているかは行ってみなければわからないし、一度向こうに行けばそう簡単には帰って来れない。それでもいいな?」 しかし、彼らの覚悟は揺らがない。 「言ったっしょ、マガツ。ユイコに会えないのがもっと嫌だって」 アスナの明快な返事に、マガツは「うむ」と大きく頷いた。 「よし、ならば"向こうのイッシュ"へと行こう」 ぱちん、とマガツが指を鳴らすとその空間は切り取られ……広場には、誰も残っていなかった。 彼らの旅立ちを見た者は、いなかった。 |