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「いいですか、この世にはたくさんの"セカイ"があります」

「知ってるよ、あたし前にホウエンに旅行行ったもん」

しかし、セルディアはゆっくり首を横に振る。

「いいえ、そうではありません。さっきも言ったでしょう、ここは"もうひとつのイッシュ地方"……正確にいうなら、もうひとつのイッシュにより近い狭間」

「はざま……」

「そう。あなたと少し話がしたくてここへ連れてきました……少し、聞かれては困る話なので」

他には誰もいないから気にしなくてもいいはずなのに、自然と声は小さくなる。

「単刀直入に言いましょう。この……私のイッシュ地方を救ってください」

「えーっと……話が見えないんですけど、」

ユイコは困惑の表情を浮かべた。
セルディアはそんな彼女から一歩離れ、虚空を見つめる。

「このセカイは……このイッシュ地方は、崩壊の危機に瀕しているのです」

「崩壊の……?」

「そうです。……つい最近までは、このセカイも平和でした。人とポケモンが、仲良く共存しているセカイでした。でも……あの日を境に、その均衡は崩されてしまいました」

虚空を見つめるその瞳に、僅かに怒りの色が混ざる。

「突如現れた謎の組織……プラズマ団によって、全ては変わってしまいました。彼らはポケモンを人間から解放せよと訴えました。もちろん、皆それには反対しました。しかし、ポケモンの中には人間によくない感情を持っているものがいるのもまた、事実。そういったポケモンたちは、人間を見限りプラズマ団の元へ走りました」

「……」

「彼らはそういったポケモンたちを自らの兵隊……いえ、兵器として扱い、彼らが世界を掌握するための道具とし始めたのです。人間たちもそれに対抗するには戦うしかなく……今、このセカイでは人間とポケモンの戦争が起こっているのです」

「そんな……じゃあ、さっき言っていたポケモンが……えーと、擬人化?しないと生きていけないって……」

セルディアはゆっくりと悲痛な面持ちで頷く。

「そう……自分は人間と戦う意思がない、ということを示すためです。人間に反発する多くのポケモンは、人間の姿を取りたがりませんから」

「ひどい……」

視線を虚空からユイコへ移し、セルディアはその手を取る。

「お願いします、ユイコさん……このセカイを救うのに、手を……貸してください」

ユイコは言葉に詰まる。
どうしてあたしが。
突然のことに、様々な思いが彼女の中を駆け巡る。

「どうか……もう、あなたしかこのセカイを救うことはできないんです」

「あたししか……って、どういう……」

「……今は詳しくは話せません。いずれ、そのときが来たらお話ししましょう」

「ま、待ってよ!あたし……まだ、やるなんて……」

言ってない、という言葉は声になる前に飲み込まれた。
彼女の……セルディアの、その瞳をみてしまったから。


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