5


「ここ…どこ?」

辺りは薄暗く、何も見えない。
見えない、というのは暗過ぎるというわけではなく、辺りに何も存在しないのだ。
先程のベンチも、広場自体も。
自分たちと、目の前に居る黒い巨大なポケモン……伝説の中の存在だけだと思っていたゼクロムを除いては。

「嘘…でしょ、」

どうしてゼクロムが。
それよりも、マガツの姿が見えない。

『私がマガツだ』

その声は、目の前から響いてきた。
何となく、聞き覚えのある声。

「マガツって……えぇええええっ?!」

アスナは目を疑った。
目の前居るゼクロムが、マガツ。
そんな馬鹿な。
カインも思ったことは同じようで、ゼクロムの姿を凝視している。

『先程の姿は、私の仮の姿。人間の世界では、この体は少々目立ちすぎるのでな』

私たちはこれを"擬人化"と呼んでいる、と、マガツは言う。

「信じらんない…」

「俺も、」

それはそうだろう。
ポケモンが人の姿をとるなど、聞いたことがない。

『ふむ。まあ私のことはさて置いて、君たちの友人を助ける方法について、話をしよう』

マガツがそう切り出した途端、2人の目の色が変わった。

「そうだ…教えてくれ、わたしらはどうしたらいいんだ?!」

逸るアスナに、マガツはまあ待て、と一言。

『それを説明する前に、まずこのLDSの原因について説明しよう』

「それは興味があるな…教えてくれ、マガツ」

カインの言葉に、マガツはよかろうと頷いた。

『いいか。少しわかりにくいが、よく聞いてくれ。まずこの世の中には、いくつものセカイがある』

「それくらい知ってるよ」

しかしマガツは、アスナの言葉に首を振る。

『君が言っているのは、このセカイの…そう、例えばイッシュやカントー、ジョウトなど、そういった世界のことだろう?私が言っているのはそうではなく、次元的な話だ』

「次元的…?」

『つまりだな…君たちの言葉で、ええと…なんと言ったかな…』

「パラレルワールド、か?」

何かを考え込んでいたカインが、確認するようにマガツに言った。

『そう、それだ』

そして、カインの言葉を肯定する。

『つまり、決して交わることのないもう一つのイッシュ地方がある…そういう風に考えてくれ』

「もうひとつの、イッシュ地方…?」

アスナは頭のキャパシティを超えたようで、頭にはてなを浮かべている。

「アスナ、後で俺が説明してやるから。今はとりあえず話を聞こう」

「……頼んだ、カイン」

とりあえず、そういうことで話はついたらしい。
ならば、とマガツは話を続ける。

『次元的にいくつも存在するセカイ…それらは、普段は決して交わることはない。しかし、君たちはそのいくつかのセカイで生きている』

「…あの、さすがにそういうのは俺も理解できないんだけど、」

「そうだよ。わたしは今ここにいる。他のセカイなんて、見たこともないよ」

しかし、マガツはアスナの言葉にゆっくり首を振る。

『いいや、君たちは他のセカイを見ているはずだ。"夢"という形でな』

それは、このセカイを生きてきた2人にとっては衝撃的な事実だった。


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