4 「な…んで、オッサンが知ってるの…?」 絞りだすように、アスナは言う。 誰にも…そう、家族と自分たちしかまだ知らないはずなのだ。 ユイコが、LDSにかかってしまったという事実は。 「やはりそうか」 男性はふむと頷いた。 「答えろよ!なんでオッサンが知ってんだよ!!」 「おい、アスナやめろよ!」 取り乱したアスナが男性につかみかかるのを、カインは必死で引き止める。 アスナは渋々、男性の胸ぐらから手を離す。 「アスナ、と言ったか。私は別に君の知り合いがLDSにかかったことを知っていた訳じゃない。ただ職業柄、そうではないかと直感しただけだ」 「職業柄…ってことは、オッサン、医者か何かなのか?」 もしかしたら、と一縷の望みをかけて。 アスナは、男性に問いかける。 男性はふむ、と頷き、自信たっぷりに言った。 「医者…とも言えるかもしれないな。ただし、私は人間の医者ではない。このセカイの医者であり、管理人なのだ」 時間が。 空気が、止まった。 カインは何と言ったものかと目を泳がせ、アスナは。 「馬鹿にしてんじゃねえよオッサン!わたしら、マジなんだぞ!セカイの医者とか、ふざけんな!!」 「俺も…今のは、アスナに同感だ。オッサン、ファンタジー小説なら家で書けよ」 激昂するアスナをなだめながら、カインは「行こうぜ」とその場を立ち去ろうとする。 その様子に、男性は慌てて立ち上がる。 「待て待て!私はファンタジー作家ではないし、今言ったことは事実だ。それにもしかしたら、君たちの友人をなんとかすることができる……かも、しれない」 ぴたり。 2人の足が止まる。 「オッサン…それ、本当か?」 アスナの言葉に、男性はうむと頷く。 「もう少し様子見をしてから動き出そうと思っていたのだが…こうして、発症者の関係者と直接関わった以上は、放っておくわけにもいくまい」 「頼む、オッサン…!」 「頼む、はいいが、オッサンはやめてくれないか」 アスナの言葉に、男性は苦笑で返す。 「あ…うん。でも私ら、オッサンの名前知らないし」 「"今"は、マガツ……と名乗っている」 含みを持たせたその言葉に、カインが首を傾げる。 「今は…と言うなら、他に何か名前があるのか?」 すると彼…マガツは、感心したように声を上げた。 「ほう!君はなかなか鋭い。ええと、カイン…と言ったかな?」 マガツの言葉に、カインは頷く。 「いいだろう、私の本当の姿を教えよう…ただし、」 マガツがぱちんと指を鳴らすと、辺りは一瞬にして闇に包まれた。 「少々、空間を切り離させてもらうよ」 闇が笑った気配がした。 |