1 「ふぁ…」 春も麗らかな昼下がり。 広場のベンチに腰掛けた少年少女。 どちらも眠そうに目をこすっている。 「眠そうだな、アスナ」 「そーいうカインこそ。なに、昨日夜更かしでもした?」 猫を思わせるつり目の少年に、褐色の肌が健康的な少女。 少年はカインと呼ばれ、少女はアスナといった。 「いや、夜更かしっていうかさ…変な夢見たんだよ」 「あ、奇遇。わたしも昨日変な夢見てさ、それがまあ、やたらリアルでさ…全然眠った気がしないんだ」 カインの言葉に、アスナは相づちをうつ。 するとカインは少し考えるような素振りを見せ、言った。 「もしかしてさ、なんか、変な声に言われるままになんか…ポケモンと戦争してる夢?」 「そうそう!で、ユイコが武器を放り出してさ、」 「うわ、全く同じ夢だ」 「不思議なこともあるもんだなぁ…気持ち悪っ」 マジありえねー、とアスナは両腕をさすり、鳥肌を押さえる仕草をする。 カインは何か反論しかけて口を開いたが、少しあたりを見回して、そういえば、と言った。 「そのユイコだけどさ。遅くないか?待ち合わせは1時だろ?」 「そういえば、そうだね。ここまでの遅刻は久しぶりかも」 アスナもつられて、時計を確認する。 時計の針は、2時を指していた。 「ったく、相変わらずだな…ユイコは」 「いい加減慣れなよカイン。ユイコがマイペースなのは、今に始まったことじゃないよ」 「でもアスナだってそう思うだろ?明日は俺らが旅立つ日だからって、一緒に買い物行くって言ったのはユイコだぜ?」 「…大方ユイコのことだから、昨日から始まったドラマでも観て寝坊したんだと思うけど」 ほら、好きな俳優が出るんだってはしゃいでたじゃん、とアスナ。 アスナの言葉に、カインは眉を寄せる。 「わかんないなぁ。ドラマの何がおもしろいんだ?」 「……家中どこのテレビつけても、ニュースしか映らない家なんてあんたん家だけだよ、カイン」 「おもしろいじゃないか、ニュース」 アスナはカインの言葉には答えず、苦虫を噛み潰したような顔を返すことで返事をした。 彼女にとっては、ニュースなんて天気予報さえあれば十分なのだ。 「それはそうと、今日家を出る前のニュースで観たんだけどさ。また、出たらしいぜ。今度はシッポウだってさ」 「マジか…原因不明なんだろ、その病気。えっと…なんて名前だっけ?」 「LDS…"Long Dream Syndrome"の略だよ」 それくらい覚えておけよ、とカインはため息をつく。 「ちぇ。しっかし、怖いっつーかさ、不気味な病気だよな…その、LDS。眠ったっきり、起きないんだろ?」 「うん。死んではいないみたいだけど…原因もわからないから、予防のしようもないみたいだしな」 先ほどから2人が話題にしているLDS…現在、このイッシュ地方で流行しつつある新しい病気の名である。 それは突然訪れ、LDSにかかった者は眠ったきり、目を覚まさない。 しばらく前に最初の発症者が現れ、それは都市を問わずに患者を増やしていった。 眠り続けるだけでそれ以外に身体に異常はみられないが、それでもこれから何もないとは言い切れない。 予防策も治療法も確立されていない、すべてが謎に包まれた病気。 それが、LDS。 |