1 「千速のばか!もう知らない!」 「あ、ちょ……待てよ龍妃!!」 私立デルタ学園女子寮――その玄関先で、就寝前とは思えない声が響き渡る。 点呼を取っていたあやめが分かりやすく胃を押さえた。 「……なんで今の時間にやらかすのかしら、あの子たちは」 そもそも男子禁制の女子寮に、玄関先とはいえ男である千速が居座るのも好ましくはない。 果凜としてもそのあたりのあやめの苦労は理解している……が、11月に差し掛かり、夜はかなり冷え込む。 そんな状態で、部屋の扉を半開きにするのは勘弁してほしいところだ。 「じゃあな、オヤスミあやめ」 「待ちなさい、果凜」 「やだよ面倒」 素早く閉めてやろうとしたが、それよりも先に爪先でそれを阻止される。 これ以上ない半眼で睨みつけるが、あやめは裁判官のように無表情な顔をする。 「……1箱」 「1週間分」 「それ何箱?」 「ダースあったら足りる」 「2箱、もしくは寮母権限で強制」 「権限はセコイっての。まぁ3箱?」 「……わかったわ」 取引成立。 ブツがタバコなどではなくポッキーだったりすることに疲労を覚えたのか、あやめは胃を抑えたまま騒音から遠い部屋に去っていく。 「ありゃ5箱ふっかけても取れたか」 惜しいことをした、と去り行くあやめの背中を見ながら呟き、渦中の玄関へと足を向けた。 |