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それは、まだ夜も明けないうちから始まった。



竜の穴での一件から数日が過ぎた。
あたしたちはイブキん家で世話になりつつ、千速の回復もだいたい終わって、さて次はどこに行こうかと地図を広げて会議を始めた……けど、そこで問題が起きた。

あたしがバカンスも兼ねてアサギ方面へ行きたいと提案すれば、千速はカントー地方のハナダへ行きたいと主張し、それならセキチクに行きたいと小夏まで言い出したもんだから意見がまとまるわけがない。
(千速はハナダのデートスポットに興味があるらしく、小夏は最近新しくできたパルパークに行きたいみたいだ)

それぞれが自分の意見を主張してなかなかまとまらなくて、小夏も眠くてぐずり始めたのを見兼ねたあやめの、

「とりあえず一晩寝かせて、朝にまたじっくり決めましょう」

という提案に賛成して、あたしたちは眠りについた……はずだったんだ。



「悪ィ、ちとせ。行き先決定……か、それが無理ならあたし一人でもちょっと行ってくるわ」

肩を揺すられて眠い目擦って目を覚ませば、

「……果凜?」

いつもよかミョーに鋭い目つきで、果凜がそこに佇んでいた。

「え、何それ。どういうこと?」

ぼんやりと覚醒しきってない頭を無理矢理動かして考えたけど、その理由はあたしには思い当たるフシがない。

「んー……いやさ、ちょっとシロガネの方でいろいろあったみてぇでさ」

シロガネ山といえば、果凜の故郷だ。
果凜はまあ、いわゆる元ヤンで、あたしと一緒に来るまではバリバリの現役で、そのシロガネ山をシメていたはず。
……でも、

「なんでまた、今になって?」

「……話せば長くなりそうなんだけど、シロガネの方で問題が起こったみてーでよ。残った連中じゃ、どうにもできねぇみたいなんだ」

いつもの果凜らしからぬ、ハガユイ物言いだ。
とりあえずあたしは、もぞもぞと布団から抜け出すと、果凜連れて縁側に出た。

……と、その庭先には。

「あれ、ゴルバット?」

暗くて見えにくいけど、月明かりに照らされて羽ばたいているのは、間違いなく。
でも、なんでこんなとこに……?

「わり、待たせたな」

『いや、いいっすよ。ところで、この人間が姐御の?』

ゴルバットはちらりとあたしを見る。
このゴルバットは果凜を"姐御"と呼んだ。
と、ゆーことは恐らくシロガネから来たんだろう。

「うん。ちとせってんだ」

『そうっすか』

彼女(ハスキーな声だからわかりにくいけど、多分女の子だろう)は慇懃にあたしを見ると、小さく一礼した。

「えーっと……ごめん果凜。話が見えないんだけど」

ぽりぽりと頬をかいて呟けば、果凜とゴルバットは顔を見合わせ、そして。

「なんつーか……あたしのヘイタイが、馬鹿やってるみてーでさ。そのアトシマツ、ってやつだよ」

バツが悪そうに、果凜が笑った。


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