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「わーお」

突然ではあるが、「修羅場」というものを皆さんご存じだろうか。

ドラマの世界ではお約束だが、現実にはなかなかに見る機会はないものと思ってはいたけれど、それが今目の前で繰り広げられているのだ。
これをデバガメせずにいらいでか。

「ちょ……!龍妃、誤解!誤解だって!!」

千速が必死の形相で龍妃にしがみついてる(なっさけねー)けど、龍妃はにっこり笑って口を開いた。

「千速、さん?」

……うっわぁ。
これマジギレだよ龍妃。
辺りの体感気温が一気に下がった気がした。
まじ勘弁。

「……何やってんだ、ちとせ」

「"家政婦は見た!"ごっこ。今いーとこだから邪魔すんな」

そう。
今のあたしは扉に張り付いて、その隙間から中の様子を伺ってるのだ。
家政婦は見た!ごっこは乙女のアコガレだと思うんだ。

「そんな変な遊びに興味持つようなヤツは乙女とは呼ばねーよ」

的確なツッコミが聞こえる方へ目を遣れば、

「なんだ、まひるか」

案の定、藤色したヤツがそこにいた。

「お前ほんと失礼にも程があるよな。で、何を見たって?」

「失礼な発言するまひるくんには教えませーん」

「……別にいいけど」

「あぁあウソウソ!冗談!」

程々にしとけよ、とのありがたいお言葉を残して立ち去ろうとするまひるの腕を引っ張り引き止めると、盛大に溜息をつかれた。

「……で?誰が家政婦で、何を見たって?」

なんだかんだで、こうやって付き合ってくれるまひるくんがあたしは大好きだよ。

……って思ったら、マジ気味わりぃコイツって目で見られた。
ガッデム。

「まぁ、いいや。まひる、扉の隙間から中覗いてみな」

くい、と親指で扉を指すと、まひるは眉を潜めながらも扉の隙間に顔を近付ける。
……そして、

「……龍妃あそこまで怒らせるとか、あの馬鹿一体何やらかしたんだ?」

「わかんない。さっきデートから帰ってきたらあの調子なんだもん」

そう。
朝方からいつもの通り、あの2人はオシドリよろしく出掛けて行った……はず、なんだけど。
気配がするから帰ってきたと思って部屋を覗いたら、この有様だったのだ。

「あ、ちょ、龍妃!!」

中から千速の声が聞こえたと思った途端、

「……あら。ちとせさん、まひるさん」

「あ……あはは、どーもぉ」

あーあ、とまひるが後ろで漏らしたのを、あたしは聞かなかった振りをするしかできなかった。


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