1 「今日はこれくらいにしましょう。お疲れ様です、ちとせさん」 「ありがとうございました、先生」 …足が痺れる。 先生が帰るまでは我慢、我慢だけど…! 「あ、そうそう。ちとせさん」 あとちょっとで部屋から出ていくというところで、先生が振り返った。 (早く帰れ!) 「お母様が、お稽古が終わったら母屋に来るように、とのことですよ」 うげ、って漏れそうになるのを必死で堪えて、 「わかりました、先生。ありがとうございます」 では、と先生はやぁっと部屋から出ていった。 「っかー!生け花とかマジかったるい!」 着物の裾が乱れるのなんて知ったこっちゃない。 母様が母屋に呼ぶなんて、碌なこっちゃないんだよなー。 めんどくさいなー、バックレよっかなー。 でもそしたらあとがめんどくさいしな。 なーんて考えてると、部屋の隅に転がしてたモンスターボールが光り、見慣れたシルエットのエーフィが現れた。 『ちとせー、お前もうちょっと恥じらいとか持ったらどう?ぱんつ見えてるんだけど』 「おや、まひる。別にいいじゃないの、私のぱんつなんて毎日その辺に干してるじゃないのよ」 『そういう問題じゃねぇよ』 盛大に溜息を吐いて、まひるは前足で器用に私の着物の乱れた裾をなおしてくれる。 「かたじけないー」 『かたじけない、じゃ、ねぇよ。ほら、呼ばれてるんだから早く行けよ』 「うーん、もうちょっと」 『あんまり馬鹿やってると、あやめ呼んでくっぞ』 「ぎゃ!ごめん起きる行ってくるからあやめ呼ぶのはやめて怒られる」 まひるが小舅なら、あやめはお姉ちゃん。 あたしが頭の上がらない存在でもある。 「ったく…ほら、行ってきな」 いつの間にか擬人化していたまひるが扉を引いてくれる。 「はいはーい、いってきますよーっだ」 まひるの脇を擦り抜けるように廊下に出て、今度は何だろうとちょっと重い気分で母屋に向かった。 |