Sweet Days 「……や。千速、起きて」 オレを呼ぶのは愛しくて愛しい龍妃の声。 まどろみの中手を伸ばせば、簡単に触れることができる距離。 「おはよ、龍妃」 そっとその頬に触れてそのまま抱きしめると、龍妃は小さくはにかんだ。 「もう、千速ってば…今日はちとせさんのところに行くって言ったじゃない」 そういえばそうだった。 もう少しこの幸せな時間に浸っていたいけど、生憎今日ちとせのとこに行くのは龍妃の体調のこともあるからそうのんびりもしていられない。 「ん、わかってる」 名残惜しいけど腕から龍妃を解放して、身支度を整える。 とは言っても行くのはどうせちとせん家だし、そんなに畏まる必要もない。 最近龍妃は少し体調が悪いみたいで、立ちくらみや吐き気をよく訴える。 さすがにオレじゃあどうしようもないからちとせに相談してみれば、一度診察してみたら、と言うわけで。 彼女の身体を支えながら見慣れた敷居をまたぐと、なんだかんだでやっぱり懐かしさが込み上げる。 「おーい、ちとせー」 「あー龍妃に千速!なんだ、思ったより早かったね」 そういうちとせは寝起きなんだろう、くたびれたジャージを着ていた。 とりあえず龍妃を奥に通して、オレはひとり縁側に腰掛ける。 もし何かの病気だったら、と思うと気が気じゃない。 祈るような気持ちで診察の結果を待つ。 …どれくらい時間が経っただろう? 診察ってこんな時間かかるもんなのか? 中の様子がわからないことに不安になりはじめたそのとき。 かたり、と襖の開く音がした。 その方向を見遣れば、ちとせとあやめと共に、龍妃の姿。 3人の表情に曇ったところがないのに、ひとまずの安心を覚える。 「どうだったんだ?!」 急いで龍妃の元へ駆け寄ると、クスリと笑って言ったんだ。 「あのね、千速。驚かないでね……貴方の、赤ちゃんがいるんですって」 「……っていう夢みたんだけどいつプロポーズするべきだと思う、まひる?」 「しらねーよ」 こちらを見ることなく返って来た答えは、あまりに無情だった。 いい夫婦の日! (所詮千速は千速ということです) |