5


――やっぱり、そうだ。

彼女に、果凜は倒せない。
それは実力云々の話ではなく、彼女は今でも果凜のことを心のどっかで慕ってる。
本人が気付かないように目を背けていたその思いが、多分……彼女に、その一撃を思い止まらせたんだ。


「はいはーい、そこまで!」

ぱん、と手を叩けば、果凜とキラは同時にあたしの方を向いた。

「キラぁ。あんた、果凜のことほんとは嫌いじゃないんでしょ?ほんとはまだ、果凜のこと好きなんでしょ?」

彼女の言動の端々から、はっきり読み取れたわけじゃない。
でも、あたしには確信があった。

『違うッ!あた……、オレは……っ』

『無理すんなよ、キラ。お前、そんなんじゃなかっただろ』

どかりと果凜は地面に腰を下ろし、もう戦う意思はないのだと緊張感を解いた。

『キラ……それに、リア。あたしはお前らのことが嫌だから出て行ったんじゃねえし、ちとせんとこ行ってからもお前らのこと忘れたこたぁねーよ』

『あ……ねき、』

そしてキラは、その目いっぱいに涙を溜めたかと思えば次の瞬間、ぎゅうと果凜にしがみついた。

『馬鹿野郎……あたし、姉貴に捨てられたと思ってた……もう、姉貴がここに帰って来ねえと思って……っ』

ぐりぐりと果凜に顔を押し付けて泣くキラは、突っ張っていた仮面が外れてみれば、なんのことはない。
一途に果凜を慕う、妹、だった。

『だから言ったろって、キラ。姐御がアタイらを捨てるわきゃねえって』

あたしたちの近くにいたゴルバット……リアはキラの側に近付いて言った。

『……まあ、あたしもお前らにちゃんと言わねえままちとせんとこ行っちまったからな。悪ィ』

そう言って果凜は、バンギラスからヒトへと姿を変え――彼女の首にしがみつくキラの頭を、がしがしと撫でたのだった。


これにて、一件落着。

「ねー、千速ー」

「何だよ」

「あやめたちに、終わったよって伝えてきて」

「は?やだよ自分で行けよ」

あたしの誠意溢れるお願い改め命令に、千速は心底めんどくさそうに眉をしかめた。

「ふーん、いいんだー?じゃああたし、龍妃といちゃらぶしながら腕組んで帰って来よーっと」

「……!行くよ、行ってくりゃあいいんだろ!」

途端にゲンキンなもので、千速はダッシュで龍妃たちが向かった方へと駆け出した。
(うーむ、相変わらず操作しやすい。あそこまで単純だとたまに心配なんだけどなー)

「さて……と」

よし、と気合いを入れ直して、あたしは果凜たちの方へと一歩踏み出した。


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