3 ――話はあの日まで、遡る。 あたしがあの日シロガネへ行ったのは、ただの観光が目的ではない。 (もっとも、シロガネへ観光しようなんてのは、相当のモノズキだとは思うけど) フスベのときのように、修行の一環として 「シロガネを中心にポケモンが人里を荒らし回っているので、何とかするように」 ……と、放り出されたのだ。 まだ人的な被害は出ていないものの、周辺では食べ物が盗まれたり小屋が壊されたりといった被害が積み重なっているため、なんとか解決できないかということでうちに相談がやってきたらしい。 まあ、そういったわけで。 ぶっちゃけ気が進まなくて渋々シロガネへ向かったあたしは、そこで果凜と出会って、まあいろいろあって、果凜が一緒に来ることにはなったんだけど。 (そういった意味では、行ってよかったと思ってる。いやマジで) よくよく思い出してみれば、あのとき果凜以外の"チーム"のポケモンに会った記憶がない。 ――今思えば。 もしかしたら、果凜は自分が楯になることで、他のチームのメンバーに害が及ばないようにしようとしたのかもしんない。 (そこんとこは、果凜に聞かなきゃわかんないけど) ……ともかく。 『ちとせの姐御、もうそろそろシロガネっすよ』 ぼんやりとあのときのことを思い出していたら、いつの間にかシロガネ付近まで来ていたらしい。 そういえば、空気がぴりぴりと張り詰めている。 あー、うん。そうだ、この空気だ。 シロガネの洞窟付近に降り立てば、そのぴりぴりした空気が一層感じられる。 「果凜、」 ボールから果凜を出してやれば、それと同時に人へと姿を変えた。 ……あれ? なんで擬人化したんだろ。 せっかくシロガネに帰ってきたんだから、バンギラスのままの方がよくない? しかし果凜は気にすることなく辺りを見回し、懐かしそうに目を細める。 「……なっつかしいな、」 その声色は、どこか寂し気な色を帯びていた。 「そだね」 別に、あたしが懐かしいわけじゃないけど。 それでも果凜にとっちゃ、ここは本当の意味での家だから。 『……姐御、』 「ん、わぁーってる。あの馬鹿の目、覚まさせてやりゃいんだろ」 控えめにかけられた声に頷き、果凜は一度あたしの方を見る。 あたしは何でかそうしなきゃいけない気がして、にっと笑って頷いた。 「だいじょぶだいじょぶ、なんとかなるよー」 ……懐かしいだけじゃない。 多分それ以上に不安なんだ、果凜は。 シロガネの仲間にとって、果凜は"裏切り者"って呼ばれてもおかしくない。 そんな自分が今更来たところで、何ができるのかって思いが大きいんだと思う。 ……だから、果凜は。 バンギラスの姿に、戻ろうとしないんだ。 とりあえずあたしは、ザックから全員のボールを取り出し、そして放り投げた。 |