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「千速……」

龍妃はそっと千速の頭を撫でる。

『龍妃……ごめ、』

「ううん、私こそごめんなさい千速……ちゃんと千速の話も聞かないで、」

千速はいいよ、と頷いたあとに、おもむろにあたしの方を向いた。

『ちとせ、悪ィ……タンカ切ったけどやっぱ結構キツいわこれ、』

ほら、だから言ったじゃん。
心配させんな、馬鹿千速。
でも、千速のおかげでもあるから……今日のところは、何も言わないでおいてあげよう。

「しゃーねーなぁ。ほら、戻りなよ」

ようやく見付けた千速のボールをかざせば、おとなしく中に吸い込まれる。

「ちとせさん……ありがとう、」

「うんにゃ、礼には及ばねえよ」

あたしはぱたぱたと手を振って、そしてくるりと振り返る。


さて……と。

「イーブーキっ」

「な……なによ、ちとせ、」

「んっふっふー。いやぁね、たいしたことじゃないんだけどさ。誰のせいでこういうことになったんだっけー?」

にこにこと問い詰めれば、イブキはうっと言葉を詰まらせる。

「だ……だから、悪かったって言ってるでしょ!」

しかしあたしは、にこにこを一層深くして中指をおっ立てた。

「んっふっふ……問・答・無・用!小夏、れっつごー!」

「うんっ!」

ぴょん、と果凜の腕から飛び降りると、小夏はピカチュウの姿へと戻る。

……そして。

『イブキおねえちゃんっ』

逃げようとするイブキに飛びつくと、

「きゃああっ?!」

ばちばちっと冬場にセーターを脱いだときに聞く音がしたかと思うと、イブキがその場にへたりこんでいたのだった。
うーん、よきかなよきかな。


『あの、ちとせ……さん、』

「ん?」

おずおずとかけられた声に振り向けば、カイリューが頭を垂れていた。
彼女の視線は、千速のボールに注がれてる。

「千速なら大丈夫だよ、今から治療に連れてくし、あれで割にタフだしね」

あたしが笑ってそう言えば、カイリューはほっと一息ついた。

「まあ、あんたもちょっと悪かったと思うならさ。ちょっとずつでも心を開いていってくれたらあたしとしてはうれしいかな」

『……正直、まだどうしていいかはわからない。あの人のこと、まだ引きずっているのも本当。でも、千速さんみたいな人もいるってわかったから』

「姉さん……!」

『龍妃も……本当に、ごめんなさい』

「ううん……姉さんがわかってくれてよかった……、」

龍妃がそう言ったところで、ぱちんと扇子の音が響いた。

「……さあ、千速の容態も心配だわ。今日のところはそろそろ引き上げましょう」

「そだね。んじゃ、そろそろ行こっか」

あやめに促されて、あたしは洞窟の出口へと足を向ける。

「じゃーね!また来年くらいに来るよ!また千速と、あとまひるもね!」

いや、まひるもここに居るっちゃ居るんだけど。

『えぇ……楽しみにしているわ』



そうして、あたしたちは竜の穴を出ると、急いでポケモンセンターへと向かったのだった。
幸い、千速の傷も数日休めばよくなるみたいで、あたしたちはイブキに お 願 い して彼女ん家に泊まり込みで休ませてもらうことにした。
(決して脅迫ではない。お願いしただけだ。信じてぷりーず)




……そして。

「……ねぇ、ちとせ。何やってんの?」

「家政婦は見た!ごっこ。またの名をデバガメ」

扉の隙間から覗けば、

「千速、大丈夫?」

「ん、ヘーキ。ありがと龍妃」

結局、喧嘩したとこで最終的にはバカップルはバカップルでしかないんだなぁ、と。
イブキにジト目で見られながら、そんなことを思ったのであった、


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