2 「失礼します」 いつ来ても母屋のこの堅苦しい雰囲気は苦手だ。 「ちとせさん、遅いですよ。先生がお帰りになったらすぐに来るように聞いていませんか?」 引き戸を開くと、案の定母様はすでにそこに正座していた。 「いえ…聞いてます、すみません」 「それに何ですか、その格好。着物の乱れは気持ちの乱れ。きちんとなさい」 あーもう、だから母屋にはあまり来たくないんだ。 母様のお説教はほって置いたら長い。 呼ばれた理由もあまり聞きたいもんでもないけど、延々お説教よりはマシかもしれないと、あたしは母様のお説教を遮るように言った。 「あの、それで母様…今日は何の用件でしょうか?」 「ああ、そうでしたね…こっちに来なさい」 言われるままに、母様の正面に正座する。 すると母様は、あたしの前に少し大きい色紙のようなものを置いた。 「ちとせさん。あなた、今年でいくつになりますか?」 …なんだか、嫌な予感がひしひしとする。 主に、目の前にある色紙から。 黙りこくったあたしを見て、母様は続ける。 「いいですか、ちとせさん。あなたはこの家の跡取りなのですよ。それが何ですか、いつまでもだらだらと」 がみがみと小うるさい母様のお小言をBGMに、部屋に帰ったら何しようかなぁ…なんて、ぼんやり考えてたら。 「……、いいですねちとせさん?」 「…へ?」 「へ?じゃありません。全く人の話を聞かない…もう一度言いますよ。ちとせさん、そのお写真の中からお一人お決めなさい」 「何で?」 「はぁ…だから言ったでしょう。あなたには、お見合いをしてもらいます、と」 あたしは 目の前が 真っ暗になった |