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「失礼します」

いつ来ても母屋のこの堅苦しい雰囲気は苦手だ。

「ちとせさん、遅いですよ。先生がお帰りになったらすぐに来るように聞いていませんか?」

引き戸を開くと、案の定母様はすでにそこに正座していた。

「いえ…聞いてます、すみません」

「それに何ですか、その格好。着物の乱れは気持ちの乱れ。きちんとなさい」

あーもう、だから母屋にはあまり来たくないんだ。
母様のお説教はほって置いたら長い。
呼ばれた理由もあまり聞きたいもんでもないけど、延々お説教よりはマシかもしれないと、あたしは母様のお説教を遮るように言った。

「あの、それで母様…今日は何の用件でしょうか?」

「ああ、そうでしたね…こっちに来なさい」

言われるままに、母様の正面に正座する。
すると母様は、あたしの前に少し大きい色紙のようなものを置いた。

「ちとせさん。あなた、今年でいくつになりますか?」

…なんだか、嫌な予感がひしひしとする。
主に、目の前にある色紙から。
黙りこくったあたしを見て、母様は続ける。

「いいですか、ちとせさん。あなたはこの家の跡取りなのですよ。それが何ですか、いつまでもだらだらと」

がみがみと小うるさい母様のお小言をBGMに、部屋に帰ったら何しようかなぁ…なんて、ぼんやり考えてたら。

「……、いいですねちとせさん?」

「…へ?」

「へ?じゃありません。全く人の話を聞かない…もう一度言いますよ。ちとせさん、そのお写真の中からお一人お決めなさい」

「何で?」

「はぁ…だから言ったでしょう。あなたには、お見合いをしてもらいます、と」



あたしは 目の前が 真っ暗になった


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