8 「あんさー、あやめも言ってたけど、あんたが別に何を嫌いでもいいんだけどさ。さすがにちょーっと、これはやり過ぎじゃないかなー、と、あたしは思うわけなんだよね」 あたしとしても、結果的にではあるけど、千速が怪我したから黙ってるわけにはいかないし。 今回の件の直接の原因はイブキだけど、元はといえばイブキだってこの状態を何とかしたいからだしさ。 「っていうか、本当に嫌いならもっと奥に引きこもりでも何でもしてさ。男連中なんて、ほっとけばいーじゃん?なのにどうしてあんたはここにいるの?」 畳み掛けるようなあたしの言葉に、カイリューの瞳が大きく揺らぐ。 「……ねぇ。もしかして……まだ、待ってるの?」 そんなカイリューの様子をみて口を開いたのは、何かを考え込んでいたイブキ。 「待ってるって……イブキ、それ、どーいうこと?」 しかし、それはどうやら正解だったようだ。 カイリューは、びくりと大きく体を震わせた。 「ん……この子ね。元はうちの子じゃないのよ」 ――曰く。 このカイリューは、数年前にフスベジムの前に捨てられていたらしい。 体のあちこちにひどい傷や痣があったものの、何とか一命を取り留めた……が、捨てられたときのトラウマか、男に対して心を閉ざしてしまったのだという。 「……で、酷い目に遭って捨てられたけど、それでもそいつが忘れらんないって?」 彼女は答えない……けど、その目を見たらわかる。 すなわち、肯定。 「べっつにさぁ、それが悪いとは言わないけど。もったいないと思うなぁ、あたしは」 『……もったいない、ですって……?』 「うん、もったいない。だってさ、あんたは"今"を生きてるのに、そうやって過去に縛られるなんて"今"がもったいないじゃん」 人生楽しんだモン勝ちだよ、と言えば、カイリューはぱちぱちと瞬きをして、あたしを見つめた。 『……不思議なひと』 「んっふっふ、だって楽しまなきゃソンだよ」 ね、とあたしがウィンクすれば、カイリューはようやく肩の力を抜いたのだった。 ――そして、 『千速さん……だったかしら。本当に……ごめんなさい』 ぽつり、と、彼女は千速にそう言ったのだった。 |