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「あんさー、あやめも言ってたけど、あんたが別に何を嫌いでもいいんだけどさ。さすがにちょーっと、これはやり過ぎじゃないかなー、と、あたしは思うわけなんだよね」

あたしとしても、結果的にではあるけど、千速が怪我したから黙ってるわけにはいかないし。
今回の件の直接の原因はイブキだけど、元はといえばイブキだってこの状態を何とかしたいからだしさ。

「っていうか、本当に嫌いならもっと奥に引きこもりでも何でもしてさ。男連中なんて、ほっとけばいーじゃん?なのにどうしてあんたはここにいるの?」

畳み掛けるようなあたしの言葉に、カイリューの瞳が大きく揺らぐ。

「……ねぇ。もしかして……まだ、待ってるの?」

そんなカイリューの様子をみて口を開いたのは、何かを考え込んでいたイブキ。

「待ってるって……イブキ、それ、どーいうこと?」

しかし、それはどうやら正解だったようだ。
カイリューは、びくりと大きく体を震わせた。

「ん……この子ね。元はうちの子じゃないのよ」


――曰く。
このカイリューは、数年前にフスベジムの前に捨てられていたらしい。
体のあちこちにひどい傷や痣があったものの、何とか一命を取り留めた……が、捨てられたときのトラウマか、男に対して心を閉ざしてしまったのだという。


「……で、酷い目に遭って捨てられたけど、それでもそいつが忘れらんないって?」

彼女は答えない……けど、その目を見たらわかる。
すなわち、肯定。

「べっつにさぁ、それが悪いとは言わないけど。もったいないと思うなぁ、あたしは」

『……もったいない、ですって……?』

「うん、もったいない。だってさ、あんたは"今"を生きてるのに、そうやって過去に縛られるなんて"今"がもったいないじゃん」

人生楽しんだモン勝ちだよ、と言えば、カイリューはぱちぱちと瞬きをして、あたしを見つめた。

『……不思議なひと』

「んっふっふ、だって楽しまなきゃソンだよ」

ね、とあたしがウィンクすれば、カイリューはようやく肩の力を抜いたのだった。

――そして、

『千速さん……だったかしら。本当に……ごめんなさい』

ぽつり、と、彼女は千速にそう言ったのだった。


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